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夜の海底にて輝く黄色くてまるい明かり。星のように発光して海面にまで届くそれはランターン達の輝きで、かれらは不定期に集う。わたしのランターンもその中に居てしきりに海に行きたがる時は必ず灯るので、海から離れて私の傍に居ても分かるのだからポケモンって不思議だなと感心してしまう。波に揺れてゆらゆらと発光して確かめあうかのように身を寄せ合っていて、実際そうなのだろうと思いながら光を見つめていた。
わたしは海の娘で、透き通るような海しか取り柄のない島に生まれた時から住んでいる。だからランターン達の集いは数少ないわたしの楽しみで海に行きたがるランターンを必ず連れてはわたしも堤防に腰を下ろして眺めている。
素足をぶらぶら揺らしながら波音を聞いて海風に身を任せて暗やみに隠れて。宝石のようなランターン達の輝きは海一面が夜空になったかのような美しい光景で、わたしをほんの少し非日常に連れて行ってくれる。
しばらくすると光が真っ直ぐにこちらに近づいてきてもう帰るのかなと思うとランターンがざばっと顔を出した。頭の先の触手の先端にある果実のように丸々とした二つの発光体が揺れて、いつもより一際輝いてつやつやとしているから本当に果実のようで晴れやかな表情をしているランターンに楽しかった?と聞いてボールを出そうとしたら誘うように鳴かれた。わたしは曖昧に笑ってしまう。

「わたしも?見えるかな」

海面の光を一瞥して無理だろうと思う。わたしはそんなに深くまで潜れないよと言うと自分の足先が目に入った。さっきまで月明かりで青白かった素足はランターンの明かりによってあたたかく照らされていてふと人魚のことを思い出した。
むかし、人間と恋に落ちた人魚は陸にあがって男の住むこの島にその尾を引き摺った。やがて人魚はその男との子を孕み、大きく膨らんだ腹からはたくさんの子供が産まれたそうだ。だから島にはたくさんの人魚の末裔が居て、それがわたし達だという話だ。でもそれは何万年もの前の話でもう殆どおとぎ話か伝説のようなものだ。
もう帰るよと再度ボールを出すといきなり眩しくなって驚いて目を瞑ると足に何かが当たった。かと思うと引きずり込まれて一瞬で身体が冷たくなり、無我夢中で手探りで何かを掴むとぐんと力強く引っ張られた。目を開けるとそこにはランターンの光があってそしてわたしは触手を掴んでいる。どうやら足を咥えて引きずり込まれたらしい。ランターンのあまりの強引さにばか、と吐けないため息を吐いた。
体全体に当たる海水は優しく道を開けてくれて深海に急速に近付いていく。水を吸った服は重く揺れて爪先までもが冷たくなって足先から発生する泡を想像する。光で辺りはよく見えるけど案外深海には何もないみたいでただただ暗い色をしている。そういえば空から海が生まれたのだっけ。だから鏡のように似ているのだろうか。
遠くにランターン達の明かりが見える。わたしはとうとう憧れていた景色を間近で見ることができるのだと思った。光の届かない場所でランターン達が輝く海底はきっとどこよりもあたたかくて冷たくて眩しいのだろう。ランターンはこちらを見向きもしないで楽しくて仕方がないかのようにくすくすと笑ってわたしを集いに案内してくれている。その意味をほんの少しだけ考えた。
わたしが本当に人魚の末裔だとしてわたしは今この瞬間にエラと鱗を得るだろうか。わたしの二つの素足は一つの尾に生まれ変わり、鱗を得て海の中で呼吸できたのならおとぎ話の続きを紡げるだろうか。わたしってこんなに夢見みがちだったっけ。だけど今はわたしの願望も孤独もなにもかもを全てランターンと海に委ねたい。蒼ざめた故郷を夢見てわたしは瞼を下ろす。もしも本当にあの美しい光景を間近で見られたのなら、鱗を得ずに海の底に沈んでしまってもいいよなんて頭の隅で考えながら。


わたしを解剖したらきっと魚の骨と星が出てくるよ 190923

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