complex | ナノ
眼下に横たわる裸体は、百合の花を連想するほどに白い。
斜陽のせいでほとんど分からないのだが。
弓道場のよく手入れされた床に転がる1つの白‥‥。
なまえ。名字のないただのなまえ。
それは名前があると言えるのだろうか。なまえ、なまえなまえ、な・ま・え。
なまえは静かに絶命している。腹の上で指を組んで、そこで白雪姫を思い出した。
僕はなまえを犯す。王子様もどうやら、死体愛好家であったらしいし。
なまえの身体は冷たい。でも膣内はまだほんのりと温かい。
なまえの中はいくらみたいに細かくて、食虫植物のようにペニスを絡み付く。
食虫植物のことなんて知らないけどね。生きているみたいだ。
次第になまえの声のない声と僕の低い声が重なる。額から汗が落ちてその肌を汚した。スペルマ。
白い肌は、やはり生まれたてが一番鮮やかだったのだろう。
生まれる瞬間に立ち会ってみたかったな。僕が父親でもよかった。
なまえをロリータみたいに愛してみたい。なら、僕はハンバート・ ハンバートにならなければ。でも僕は逃避行よりも心中縛りをしてみたいです。
僕のこれはエゴに塗れているだろうか。いや、違う。これは愛だから。
それなのにペニスはどんどん張りつめていってなまえの中を穿つ。
愛は神聖か? 性は神聖か? 自我から離れているか?
よく愛は神聖だと謳われるが、性についてはそうでもないらしく、無償の愛であればあるほどよいものらしい。
そんなことがあるから、僕は昔から性をどこかしら汚いものだと思っている。だからこそ汚してみたい。
そして赦されてみたい。何度汚しても、また甦るならそれこそ無償と真実の愛ではありませんか。
そうだ。君は聖母様だ。肌も処女、神聖、苟且を思わせるほど白いのだから。
じゃあ処女懐胎してください。僕を生まれ直させてください‥‥。
手、繋いでみたいなあ。
その組んだ指の間に、僕の指を滑り込ませてみる。白雪姫は終わりだ。
王子様はまだ終わっていませんが、そもそも僕は王子様なんて柄じゃなかったな。僕は最後には退治されてハッピーエンドの足場にされる悪者だった。
なまえは童話を読んだことあるのかな。王子様を夢見たことはあるのかな。
どんな子供だったんだろう。僕はカマキリをバラバラに剥いだり、学校の水槽に洗剤を入れて遊んだりしていたよ。
なまえはその時も抜けるように肌が白かったんだろうなあ。
手を絡めてみる。小さいなあ。冷たいなあ。‥‥可愛いなあ。
ついに射精すると怪物の声が聞こえてきた。なまえの手を強く握ってしまったから、体温を押し付けた。
それくらいの絶頂だった。痛いくらいの絶頂だった。尿道から激しく迫り上がる感覚は、解き放たれるようだ。特有の虚脱感だって消し飛ぶ。こんなにも脈動して、濃いスペルマが出ているのが分かるものかと妙に感動したりもした。
肩で息をしながら見下ろすと、なまえの陰部から僕のスペルマが少量飛び散っていた。
綺麗だ。僕は汚いのに。なまえ。
腹の底がどんなに目を凝らしても見えない。憎たらしく思う。透視してみたいと思う。
僕のスペルマによって浸される産道を。白に染まる産道を。
妊娠したらいいな。そしたらようやく理由を得られるので自殺してみせるから、僕を生まれ直させてください。
「先生」
帰ろうと扉を開くと目の前になまえがいた。制服姿でこちらを見上げている。僕を待っていたのだろうか?
こっそりとスカートの下に目をやる。
スペルマが零れ落ちていない。
何もない。
白い肌があるだけ。
さらに下に靴下。
ソックス。
紺色だ。
上履き。
妊娠しなかったか。残念に思いながら、煙草を深く吸い込む。
まあ、焦らなくていい。子供というのは授かりものなんだから。
‥‥僕が死ぬのも先延ばしになったな。
なまえは慌てて追いかけてきて腕を絡めてくる。
あまり他の人が居る場所でそういったことはしないで欲しいと前に言ったばかりなんだが‥‥まあいいか。なまえは甘えん坊だものな。
嬉しそうに僕の腕に頬擦りするから、その顔に、煙草を押し付けてやったらどうなるだろうと思った。
一瞬の仄暗い錯覚が浮かぶ。欲望する。その頬に欲情した。
そうだな、いつかは僕の印を刻んでみせよう。似合うだろうな。
なまえも喜んでくれるはずだ。神聖な白い肌を汚すから僕だけの聖女様になってくれ。
なまえもそれがいいよな? 多分、なまえは図書館に行きたいんだろう。
そうだな、僕も行くところなんてないからそこに向かおう。
∴
図書館の扉を開くとなまえが立っている。
夕焼けが差し込む窓に、背を向けて本を読んでいる。すぐ傍には一冊抜かれた本棚があった。
なまえは本が好きだ。なまえは誰も知らないものが好きだ。
そして、人目につき始めると、途端に好きでなくなる。変わったコだ。
それは本当に好きなのかいと訊いたことがある。
なまえはその時読んでいた本を閉じてうーんと声に出して考えたあと、わたしの好きってそういうことなんですねと笑った。
好きになるには理由があって、好きでならなくなるのはその反対の理由であるらしい。
なまえはその本もずいぶんと前に手放していた。仕方がない。時間の問題なのだから。
背表紙に目を向ける。ミネ・モルス。解放と快楽。
また僕の知らない本だ。この本も誰も知らないだろうな。
でも、いつかは存在するのかもしれない。
「御幸ちゃんはいないですよ。わたしが隠しちゃったから」
僕に気付いたなまえは本から顔を上げた。
僕に向かって、言葉を投げかける。
「先生って、奪う愛と奪われる愛、どっちが好きですか?」
今日、墓守の番人がいないのはそういうことだったのか。ていうかキミらって面識あったんだね。
僕は応えずに全部無視して近付くと、カーテンが揺れてなまえを覆った。
そのまま消えてしまいそうだった。桜のように、泡沫のように。
目の前のなまえは僕の頭一つ小さい。
可愛らしいと思う。少女という感じがして。
少女は僕のことなんて見ていない。見やしない。
なまえを僕のスペルマで汚したい。僕の陰毛をなまえの産毛に擦り付けてみたい。僕の赤黒いペニスが似合わない小さくてふるふるした唇の間に突っ込んでみたい。あわよくば尿を飲ませたい。全部で108個あるよ。
駄目かい? いいじゃないか。
なまえには、膣と子宮があるのだから。
男を、受け入れる空洞と容れ物があるのだから。
男を、狂わせるものがあるのだから。
僕を、狂わせるものがあるのだから。
どうか僕に構わないでほしい。愛とは、自分勝手であるのだから。
なまえの目に僕が映っている。あまり形容はしたくない。
「先生、わたしって、弱いんです。だから先生だって、強くなる必要なんてないですよ。ふたりで弱いままの方が‥‥‥‥」
そこでなまえは口を噤んで、言葉を切る。
「いいでしょ?」
「そうなのかい?」
「きっと幸せですよ」
そうだね。僕と同じ気持ちでいてくれてたんだね。教えてくれてありがとう。
「なんだい? 死ぬ?」
「やだ、そんなこと悩んでたんですか? 大丈夫ですよ。女のコにだって、似たようなもの、ありますから。おりものってたまに‥‥どろっとした‥‥‥白濁したようなときがあるんですよ。それこそスペルマみたいに‥‥」
──いいんですよ。
赦しを得たので、スカートをめくり上げようと手を伸ばしたら、先になまえ自らがその裾を掴んだ。
制服とは勉学に励む子らが身に付けるものだが、今から性的な意味で使う。
セックス。果てに妊娠。生まれ直す。堕胎。誕生。
なまえが頬を赤らめて恥ずかしそうな顔をしている。嘘つき。パンティーも履いていなかったくせに。もう足首にまで淫蜜が漏れ出ているじゃないか。初めからそうされたかったんだね? ならお望み通り孕ませてやる。
しゃがむと夕焼けが見えた。股の間が燃えているみたいだ。ほのお。
触るとぴちゃりと音がして、なまえが小さく声を漏らした。手を引くと透明なおりものが絡んでいた。
今日はなまえのスペルマは見れないが、いつか見れるだろう。
愛撫して、抱こう。
喘ぐなまえが目の前にいる。僕のペニスを健気にきゅっと搾って、僕の上を跨って。なまえの髪を耳に掛ける。さっきフェラチオしてもらった時に顔に射精した。なまえは拭わない。汚したことが目に見えたほうが興奮すると知っているから。実際、僕のペニスにはすぐに新鮮な血液が巡った。何度もなまえの中で射精している。既に互いの陰部から白濁の泡が立って、遠い波濤みたいだった。ああ、子宮だけでなく皮膚にも僕のスペルマが染み込むんだね。生涯の充足を得た気分だ。ちょうど夕焼けがなまえの背中で輝いてまさしく聖母様だ。あとはヴェールがあったらいいな。それも僕のスペルマで汚してあげる。出産したら僕を産んだ女になってくれるのかい。嬉しいなあ。なまえは腰を振りながら耳に触れ続けている僕の手を舐めた。瑪瑙色の綺麗な粘膜。我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。な・ま・え。声に出さずに呟いて頭の中で思って死にたくなる。これもプライドの高さ故だ。
いっそ殺してくれ。僕はなまえに殺されてみたい。