complex | ナノ
双生児というのは前世で心中した恋人たちであるらしい。だとしたら愛に対して最も残酷なことではないだろうか。愛し合うにはお互い狂うしか手立てはなく、殺して欲しいも首を絞めて欲しいも二度と言えなくなる。でもきっと、わたしの身体は恐怖の色合いをして青褪めていたのだろう。その人を好きなまま死んだから、その人を忘れることは許されないのか。もう、愛がなければわたしは何者でもない。
「愛してる」はきっと死ねば綺麗な言葉。欲望は自我なのかも知れない、倫太郎。
時々、自分を瑞々しい棘のように思う。玉のような血を出させることもできない未完成の棘。刺すことの叶わない棘。わたしの歪みをみとめるのは倫太郎だけ。倫太郎のことならどんなものだって飲みほしてしまいたいけど、本心から言っても自分でもどうにも嘘くさい。好きになるということは、目にするもの全てがわたしと倫太郎のために在るように思うことだ。
わたしはもう二度と狂うことはないだろう。
わたしの幼い言葉は効力を持たない。だから倫太郎の言葉は絶対で、その言葉によって、わたしは全てを差し出した。処女を貫かれた痛みはそれなりにあって、救われた。涙で血の繋がりのことを忘れられた。そして倫太郎はそう賢くもないと思った。だって、わたしと破滅する気がある。わたしはようやく、倫太郎の言葉に救われていたことに気が付いた。
唇を重ね、性器に触れて、身体の中へ潜り込む。その瞬間の倫太郎の吐息に何度も愛おしさを覚えた。似ても似つかないわたし達の身体は、柔らかくて硬くて潤んでいる。
もし、血が繋がっていなかったらなんて考えない。わたしは倫太郎が倫太郎であるから好きなわけではないの。双子であるからでもない。わたしの男だから。犯されるのはこの人だけがいいという、強い直感。愛だなんて未来を奪っているだけだから。……なら、わたしは倫太郎と双子に生まれてきてよかったのかも知れない。
倫太郎が殺したのか、わたしが殺したのか。それは分からない。分かるはずもない。ただ、殺されたいほど倫太郎のことが好き。そう思うだけでしあわせになれるのだから、生まれてきてよかった。
「…で?」
そう言われたら、わたしは心と両手を差し出す他なくなる。分かってるくせに、倫太郎。
制服を脱いで裸になり、両手首を見せるように倫太郎に向ける。服従の格好は牢獄に似ている。わたし、愛されたいよりも心配されたいと思うことのほうがしっくりくる。
顔が近づいて手首を舐められる。倫太郎はわたしを舐める悪いくせがある。
目蓋、目尻、頬、唇、首、鎖骨、腕、指、胸、腹、股、足の付け根、足、足の甲、足裏。どれも柔らかい舌の感触を覚えている。倫太郎はわたしが転んで怪我をした時、泥さえ舐め取った。幼い頃からだった。幼いながらわたしは、いつか、してはならないことをするのだろうと思った。
今日、クラスメイトの男の子が授業で分からないところを聞いてきた。それだけで嫉妬に狂った倫太郎はわたしを部屋に閉じ込め、舌を押し付けている。わたしはこういう子供っぽいところが好き。
手首の舌が、腕を首を股をなぞる(殺されるワンシーンみたい)セックスなんて唇を重ねたら出来たことで、わたし達にとって特別なことではなかった。わたしの股に舌を伸ばす倫太郎を見下ろすと女神の成り損ないのように思う。
ねえ、倫太郎。わたしのこと好き?
ベットに押し倒され、鋭い瞳に射抜かれる。わたしはそれで満足して全てがどうでもよくなって、くすくす笑う。犯されるわたしは倫太郎のものだ。
倫太郎はほとんど制服を脱がないまま挿入し、わたしは芯から身体が震えた。この感覚は戦慄に似ていると思う。倫太郎の息を吐く瞬間が愛おしくて下唇を軽く噛む。充足感と戦慄は紙一重なのかも知れない。罅割れそう。
「あっ……」
声は甲高い。わたしの声だ。倫太郎の首に手を回す。押し付けられた肉体は硬くて、宝物のように繊細だ。わたしの男だ。
一目惚れも痛みも天啓に近い。このまま殺されたいと願ってしまう。セックスなんてほとんど快楽を感じたことがない。痛いだけだ。痛いからこそ、身を委ねたくなる。気持ちいいだけだなんて価値がない。倫太郎の動きが激しくなるから、名前をあまったるい声で何度も囁いた。
血で出逢った。もう肉も骨も残さなくていい。無言で倫太郎の首を見つめ、健康的な喉仏に酷く欲情した。わたしはもしかしたら、溺死体だったんじゃないだろうか。倫太郎の肉体の下に居るわたしはなんて特別なのだろう……
肩甲骨の尖りに指を這わせる。いつまでできるだろうと思いながら、心のどこかでは永遠にできると思っている。
倫太郎、正常になったらゆるさない。