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雪が深く積もる大地で星空を見上げていた。防寒しているから寒くはないのだけどもうずっとこの場所でオーロラが現れるのを待っている。星空が最も綺麗に見える景色だからそれはもうよく見えるのだけどやはり退屈なものできっと隣で見上げているアマルルガもそうなのだろう。不意に目が合うとわたし達は退屈を誤魔化すようにただ目を細めて笑う。その度にアマルルガの黄色のヒレは緑色に変化するのでわたしはまたじっと見つめてしまう。
アマルルガというのは進化前のアマルスの体の一部から復元された古代ポケモンで、その身体の一部は雪山で一億年も前から氷漬けになっていたそうだ。わたしのアマルルガも化石から復元した。
ふと視線に気付いて見上げるとリュックに熱い視線が注がれていたのでお互い腰を下ろすことにした。リュックからスープが入った瓶とポフレを取り出し、ポフレを差し出すとアマルルガは慎重に口で受け取った。食べ始めるとヒレは鮮やかな黄色へと変化する。アマルルガの体表にはマイナス百五〇度もあり、ひし形の結晶もそれに達する冷気が閉じ込められているので、もしうっかり触れたら凍り付くどころではないのだろうなと思いながらスープを飲んだ。
ヒレはいつもゆらゆらと揺れて、普段は黄色だが怒った時は赤、喜んだ時は緑、何か食べた時は鮮やかな黄色、嫌な時は青など、感情によって様々な色に変化する。まさにオーロラのようで何度見ても目を奪われてしまう。
じっと見つめていたので思わず目が合うと控えめに笑ってヒレを緑色にする。こういう、親しみを感じさせるアマルルガの仕草が好きだ。何度も当たり前のようにするので少々照れるが。ちょっとお高めのポフレをあげた。
また鮮やかな黄色にするアマルルガに蘇ったかれらはこれからどうなるのだろうと思った。色が変化するヒレも、マイナス百五〇度に達する体表も、ひし形の結晶も、どれも素敵だと思う。だけど蘇ってしまった以上これからはこの世界に適応するためにその体質は変わってしまうのだろう。かれらはポケモンだから人と共存しやすくこれから進化していくのだ。もしかしたら温度も結晶もヒレも失われてしまうのかも知れない。別に復元したことを後悔している訳ではない。わたしがアマルスを蘇らせたことは変わらないし、古代ポケモンを蘇らせるという大役を初めて任されて胸が高鳴ったことも覚えている。そしてわたしがアマルスを引き取ることになり、やがてその身体の一部が結晶だったことを知った。
図鑑を読んだ時にオーロラと通ずるものがあると知ってもしかしたらその結晶は一億年もオーロラの下で眠って、オーロラを仰ぎ見て、いつか地上でオーロラを見ることをずっと夢見ていたのかも知れないと思った。もちろん全てわたしの妄想だ。だけど受け継いだかれらの結晶にもきっと一億年が詰まっているのだと夢見ずにはいられないのだ。だって科学者はロマンチストなのだから。だからアマルルガにオーロラを見せることはどこか責務のように思えた。
ふうと息を吐けば白く色付いた。オーロラはまだ現れそうにない。別に今日見れなくとも時間はたくさんある、たくさんあるのだ。

「ねえ、怒ってる?」

この静けさのせいだろうか。それとも星がわたしを見下ろしているからだろうか。思わずそんな言葉が出てしまう。

「あなたたちを蘇らせたこと」

しばらくするとアマルルガは頭を下げてわたしの目線に合わせた。ヒレに変化はない。少しだけ安心する。

「図鑑で今の環境は暑過ぎて長生きできない可能性があるって書いてあった時、わたしのせいだって思ったの。わたしがあなたたちの本来の寿命を縮めてしまった。わたしが、あの時もっとちゃんと古代ポケモンを蘇らせることはどういうことか、あなた達のことを考えて行動すべきだった。なのに、なのにさ、どうしようもなくきみたちが好きなんだよ。温度もヒレも結晶も生い立ちも好きなんだよ。もし再度この世に生まれたことを恨んでる子が一匹でも居たらわたしは地獄に堕ちるべきなんだよ。やっぱり、やっぱりさ……わたしが蘇らせるべきじゃなかったよね…?」

空が揺れた気がした。見上げるとオーロラが浮かび上がっただけだった。何故だが夏空に花火でも打ち上がったような、そんな光景に見えた。アマルルガはオーロラを見ようとしなかった。見つめ合う。わたしの唇だけが震えている。かみさまに罪を告白したような気持ちだった。顔を近づけてきたので身構えるとべろりと舌が頬に触れて涙を舐めとった。不自然に熱く感じた。舌は熱くて、指で拭うように優しかった。
アマルルガはわたしから目を離してオーロラを見上げた。そして夜空に響くように嘶くとオーロラが共鳴するようにぶわりと揺れてさらに広がった。驚いてアマルルガを見上げるとヒレがオーロラと全く同じ色に輝いていた。口を開こうとするとやさしく微笑んでいることに気付いて何故だが閉ざしてしまった。そもそも何て言いたかったのかも分からない。
ヒレを見つめる。ただただ美しくて眩しい。七色に変化するだなんて聞いたこともないからわたしはもしかしたらかれらの秘密を知ったのかも知れない。山の向こうで燃えるようにオーロラが揺れている。ねえ、それってどういう意味なの。教えて。


極光 190430

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