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植物の吐き出された酸素で呼吸している。白い光が剥き出しのガラス張りから差し込んでくる。クァンシが足を組んだり、たばこを吸ったり灰を落としたりするとちゃぷんと水が動いて泡がふわりと揺れた。
わたしは、向かい合ったクァンシを観察する。たばこを持つ手で頭を押さえて足を伸ばすその姿が、どこかの貴族のように優雅で気怠い魅力に溢れている。泡の乗ったその肌が綺麗で、まぼろしみたい。わたしはぎゅっと胸の前まで足を寄せていた。まだまだ赤みを帯びた膝小僧を撫ぜる。くんと鼻を鳴らすと植物のにおいとたばこのにおいがした。青くさいにおいと、不健康的なにおい。そして口周りからミルクのにおいがするような錯覚におちいる。
じっと見つめていると水音と共に近づいてきて瞼とこめかみに接吻される。たばこを吸ったばかりだからかその唇は熱を持っている気がする。くすぐったくはないのだけど、わたしはそのように目を細めて笑う。灰がバスタブの外に落ちる。美しい接吻の仕方を知ったのはクァンシのせい。
植物が陽の光が浴びて青々しく輝いて、わたし達の脂が溶け合ったぬるま湯が泡のせいで白く濁っている。ずっと浸って、卵子が流れ出て互いのそれが番みたいに心中しちゃえばいいのに。そんなことを思うとクァンシの指がわたしの指の間に差し込んで握ってくるから、色彩が奪われていきそう。わたしを離さなくてもいいのに、いつかクァンシはわたしとさよならするだろうな。もしもそうなったら、わたしはクァンシとの、どんなことをよく思い出すのだろう。ねえ、今ならわたしの愛をいくつも砕いて散らばせてきたって言ったら探してきてくれるの。
接吻をされる。額に、鼻に、耳朶に。その動きも唇も小さなちょうちょみたい。バニラみたいに溶けれるのに。冷たい事実は、わたしの胸も冷たくしてやまない。それでもされるたびに羽化したばかりのような面影が残っていく。思い出すのなら、その唇ばかりなのかな。
わたしの願いをなんでも叶えてくれるのに。泡風呂も、一緒に眠ることも、映画を観ることも。でもずっとじゃない。泣きそうになっているとクァンシはわたしの頬を包み込むようにして撫ぜる。瞼を閉ざすとやっぱり、好きだと思う。わたしの頬を簡単に包み込めるその手で包まれて、撫ぜられて、目尻も一緒に触れられることが。たばこをガラスの灰皿に押し付けている。吸い殻に混じって、わたしも死んでいけたらいいのに。これから先わたしは、どうやったって初恋であるクァンシに似た人ばかり好きになる。いつかは、このバスタブでわたしの魂だけが揺れてるのね。

クァンシ、好きです。わたしの少女を認めてくれるクァンシのことが。わたしの少女を食い物にしてくれるあなたのことが好きです。わたしの世界を広げてくれたあなたのことを。あなたのことならもっと知りたいのに、いつも甘皮ほどの隔たりがある。もしもそれがわたしにとって都合が悪くったって、良いところだけを見れるくらいわたしは傲慢で盲目よ。わたし、望むなら、今、このまま。若いままで、少女のままで、幼いままで、あなたに食い物にしてもらえるままで、ずっと。わたしが本当に欲しいもの。

だから、ずっと腐敗を誘っているのよ。


私の鰐 200912

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