(ナルミツ前提、とてつもなく王泥喜くんが可哀想/1頁)
「成歩堂さん」 「・・・、なんだい」 「本当は、気がついているんじゃないですか?」
冬というのは日が落ちるのが早いもので、まだ15時だというのに既に事務所の窓からは斜陽が射している。 今ここに、みぬきちゃんは、いない。
「さあ、ぼくにはよくわからないな」
そう言い放った成歩堂さんの顔は、逆光で見えない。 でも、そんなことは関係なかった。
「嘘を、つかないでください」 「嘘?なら、きみのお得意の眼でぼくを見てごらんよ」
成歩堂さんはとんでもなく意地悪だ。 俺よりも何枚も上手なくせに、そうやって、俺に無理難題を押し付けるのが好きなのだ。
「どうせ、どうせわかってるくせに!!」
俺はめいいっぱい大きな声で反論した。 狭い事務所に鼓膜が破れるほどに俺の声がよく響く。
「俺のこと、全部全部全部、見透かしているくせに!知っているくせに!!どうして!どうして知らないふりをするんですか!」 「・・・」
成歩堂さんは、黙っていた。 これだけ大きな声を出しても、耳を塞ぐ様子も、うるさいと漏らす様子もない。 ただ、ただ黙って俺の訴えを聞いていた。 それが、なんだか腹立たしくて仕方がなかった。
「なにか、何か言ったらどうなんですか?」
俺は成歩堂さんのことをじろりと睨みあげる。
「・・・わかってるもなにも」 「!」 「ぼくはきみじゃない。きみのことなんて、わからない。もちろん、きみもぼくじゃない つまり、ぼくの言いたいことがわかるだろう?」
成歩堂さんは静かに、ゆっくりと、説明するように話す。 逆光に目が慣れ、成歩堂さんの表情が少しだけはっきりとしてきた。
「ぼくはあなたじゃないから、あなたの考えてることなんてわかるわけがない、そう言いたいんですよね?」 「そういうことになるかな」 「そ、んなはずはないんですよ!!」
成歩堂さんは目を丸くする。
「・・・オドロキくん?」 「そんな、そんな・・・!俺がどんな思いで成歩堂さんの隣にいるか、わからないはずがないんだ、っ」
俺はその場に座り込んだ。成歩堂さんがゆっくりと近づいてくるのがわかった。
「俺は御剣さんにはなれない、そうなんでしょう!?ねえ!ねえ!!」
感情のままに近づきしゃがみこんだ成歩堂さんの肩を、何回も殴る。
「成歩堂さん、そうじゃないんですか・・・っう」 「・・・泣いたって、仕方ないだろう」
そう言って成歩堂さんは殴るのをやめた俺の頭を撫でた。 まるで小さな子供をあやすように、背中をぽんぽんと叩くので俺はそのまま成歩堂さんの胸にしがみついた。
(知っていたよ、きみの気持ちはとっくのとうに。嘘をついてごめんね、でもね、それでもわかってあげられない。わかってあげたい、わかってあげたいのはやまやまなんだと言ったら、またきみはそうして泣くのかい?なんて、)
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