「お前の手って、綺麗だよなあ」
執務室で、とある事件の資料を読んでいたときのこと。 用事があって来ていた成歩堂が、ソファに腰掛けたまま私を眺めながらぽつりと呟いた。
「綺麗?そうだろうか、」 「うん、綺麗 僕の手なんて茶色くて、ごつごつしてて、何だか汚いよ」
成歩堂は自分の手をひらひらさせる。確かに成歩堂のいうとおり、彼の手はごつごつして、肌の色も私よりは黒いのだ。だからといって汚い、という表現は些か大袈裟なのではないかと思った。
「私の手も成歩堂の手と然程変わらないと思うのだが?」
私は持っていた資料を離し、成歩堂に向かい手を翳す。
「いいや、違うね」 「………具体的に一体何処がなのか教えてもらおうか、」
私はソファに腰かける成歩堂の元へ歩いていき、彼の隣へ腰を下ろした。
「うん まず、色が白いだろ?」
自らの手と比べながら、成歩堂は私の手を触り始めた。
「僕と違ってがさがさしてないし、手荒れもない」
する、と軽く私の手の甲を撫でる。その手つきはやけに官能的だった。
「あと、指が細長い!」
そう言いながら「ほら、」と成歩堂は自らの手を私の手に重ねた。
…………きっと今、成歩堂は純粋に私の手を観察しているのだろう。 しかし私は、私の手を撫で、指を絡めてくる成歩堂は明らかに誘っているようにしか見えなかった。
(おかしいのは私か?いや、)
未だに私の手を観察している成歩堂をぐい、と引き寄せると私の薄い唇で、ほどよくふっくらとした唇を塞いだ。
「! みつる、ぎ、…んむっ!?」
突然のことに成歩堂は驚き、身体を捩ろうとする。捕まれていた手を翻し、右手で成歩堂の後頭部を抑え、左手で手首を掴み逃がさないようにして、思いきり舌を絡めとった。
「ふあ、ンッ…っやあ、あ」
少し掠れた切なげな声。その声がもっと聞きたくて、口内の深くへ舌を侵入させようとした瞬間、私は成歩堂に空いた片手で胸を押される。
「っ……な、なっ何するんだよ御剣!」 「…文句は自分に言いたまえ、」 「は…どういうことだよ」
まるで、蒸気でも上がっているかのように赤面しながら成歩堂は怒った。苦しかったのか怒っているのか、息を荒くして肩を上下する。
「私も、私と異なる君のその形のいい膨れた唇が気になったものでな」 「!」 「君ばかりがそうして愉しむのは、面白くないのだよ」 「…………要するに、ムラムラしただけじゃないか、」
頬を膨らませて睨み上げるその仕草さえも私には誘惑に感じられた。
「ご名答、」
未だに息の荒い成歩堂を柔らかいソファに押し倒す。
「誘ったつもりなんかないのに」 「全く良くできた嘘だ」 「……変態検事め、」 「なんとでも」
私は悪態をつく成歩堂のきつく締められたネクタイを緩めながら、もう一度その唇に噛みついた。
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