しとしと、と雨の降る午後。
小さな窓から見える空は、重く垂れるようにどんよりとした濃灰色だった。 時折開け放しの窓から侵入する雨粒が、無機質なコンクリートに染みを作る。
「気分はどうかね、」 「………」
薄暗い部屋の中、目の前に座っている成歩堂に話しかけると、成歩堂は黙ったまま私をジロリと睨み上げる。
私は成歩堂の前にしゃがみこみ、鎖で繋がれた手首をするりと撫でた。いくらか動かしたようで、鎖が触れている部分が擦れて赤くなっている。赤いところに手を伸ばすと痛かったのか、成歩堂は少し身じろぎした。
この部屋に蔓延する雨特有の埃っぽい匂いと、じっとりとした空気に噎せ返りそうになる。まるで黴が生えてしまうのでは、と思えるくらいに気持ちの悪いものだった。こんな部屋に閉じ込めてしまっている成歩堂は、さぞうんざりしているのだろう。
しかし私は成歩堂をこの部屋から出す訳にはいかなかった。
繋いで、閉じ込めておかないと、誰かのもとへふらふらと飛んでいってしまいそうな気がしてならないのだ。たとえそれが私の杞憂だったとしても、やはり自分の世界のナカに入れておかないと落ち着かないのである。
しとしと、
おもむろに成歩堂の頬に手を伸ばした。 獲って喰おうという訳でもないのに、成歩堂は驚いてぎゅっと目を瞑り大きく後ずさる。その時大きく鎖がジャリ、と音を立てた。
何故だかはわからない。しかし私はその音にひどく欲情してしまったのだ。
そのまま成歩堂の唇に噛み付く。舌を絡め、逃げようとする成歩堂をぐっと押し倒した。 再びジャリ、ジャリと鎖が大きな音を立てる。私はその音に煽られた苛虐心に流されるまま、成歩堂の首筋に舌を這わせた。
「…最低だよ、」
沈んでゆく理性の最後に聞こえた成歩堂の声だけが脳内に響き渡った。
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