どうやら、私は孤児のようだった。村の診療所で手当てを受けている間に聞いたのは、自分の知らない、この体の持ち主である女の子のこと。

村の寺の住職が何人かの孤児を引き取り面倒を見ていたそうだ。そのうちの一人が私だった。住職は徳の高い人で近隣の村々から慕われてお布施や差し入れもあり、孤児達が餓える事はなかったが、慎ましく生きねばならないと自分達で畑を耕したり草鞋を売ったりして生計を立てていたと言う。
その寺が鬼の襲撃を受けた。私以外、皆殺されたそうだ。

私にはその記憶はない。村の人たちは皆、恐ろしさのあまり忘れてしまったんだろうと憐れんでくれたが、違う。
恐らくこの体の本当の持ち主の魂は遥か彼方に召されてしまった。若しくは、私がその弱った生命力を押し退けて入り込んでしまったのではないだろうか。そう至った時、なんて恐ろしい事だろうと体が震えて涙が溢れた。意図しなかったとは言え、もしかしたらこの子の命を奪ってしまったのではないか。怖い、恐ろしい事をした、ヒトを殺したかもしれない。ごめんなさい、ごめんなさい、と延々泣き続ける自分に声を掛けてくれたのは、いつぞや助けてくれた鬼殺隊の女の子だった。

「私の事を覚えてる?」

覚えてると頷くと「怪我は随分良くなったのね」と頭を撫でてくれた。そうして「なぜここに来たかわかる?」とも。
その人は黒い詰め襟の服に臙脂の羽織を纏っていた。そして腰に差していたのは刀だ。鬼を倒す人たち。鬼の居る世界、善逸のいる世界。逃げたかっただけかもしれない、居ないかも知れない善逸に縋りたかっただけかもしれない。この突きつけられる現実から目を反らしたかっただけかもしれない。けれど、この時の私にはきっとあの子しか居なかった。

「お願いです、私をあなたと同じ鬼狩りにしてください、なりたいんです!」

私はなんて醜いんだろう。
こんなの、ただの執着じゃないか。
だけど今の私にはそれしか無いのだ。

こんな私を「あなた」だけは許さないでいて




醜い私が生まれた日