「鬼?」
「うん、鬼。俺さ、今、桑島ってじいちゃんとこで修行してんの」
「…鬼って、あの、桃太郎の鬼退治に出てくる鬼?」
「いや!怖いよ!金棒振り回して追っかけてくんのかな!?」
「え、その鬼って、」
「人を拐って、食べるんだって。だから鬼狩りが鬼を斬らなきゃいけないんだ」
「それに善逸がなるの?」
「……そうなるみたいです」

怖いよぉおおおお!!俺には絶対無理だよぉおお!!名前さぁああん!!ぎゃん泣きする善逸の頭をよしよしするが全く話が見えない。鬼、鬼って、そんなの架空の生き物じゃないの?昔話に出で来て、角が生えてて、人に迷惑をかけて、最後には正義のヒーローに懲らしめられる、あの鬼?

「善逸は見たことがあるの?」
「ないよ、だからよく分かんないの。でも、鬼は強いから今の俺なら弱いらすぐ死ぬって言ってさぁ、じいちゃんが俺の事めっちゃ鍛えるんだけど既にもう死にそうだよぉ。」

今の名前の世界に鬼なんて居ない。全く違う次元何だろうか?だってこっちの歴史にはそんなこと一つも残っていない、はず。それよりこんな子供が鬼、と戦う?死ぬかもしれない?ありえない、そんなこと理解出来ない、泣き虫な善逸が?釈然と出来ずにいると隣で座る善逸が「ウヒヒ」と笑う。今笑うとこじゃないでしょ。

「……名前さん、俺の事心配してくれてるんだね」

すごく嬉しいな。なんて、いじらしい事を言うから肩を抱いて抱き寄せた。どうしてこんな優しい子を気遣ってくれる人が居ないんだろう。じいちゃんと呼ばれる人が善逸を思って鍛えてくれてるんだろうけど、そうじゃなくて、善逸を包んで見守って支えてくれる誰かが、どうしていない。

「心配して当たり前でしょ辞められないの?」
「んー、じいちゃんには俺の借金肩代わりしてもらった恩があるし、何だかんだ言って厳しいけどじいちゃん優しいからさ」
「……善逸今いくつ?」
「ん?もうすぐ15だよ?」

どしたの?とコテンと首を傾げる姿はまだまだ子供っぽい。そう、会わなかったたった一月半、なんと善逸の時間は3年も進んでいて驚いた。その3年、忘れずにいてくれた上にずっと会いたかったとか泣かれたらこちらはもう心臓潰れるかと思うぐらい切なかった。
いや、今、回想は置いといて、ちょっと、借金って?まだ14、5の子供が借金てなんだ。

「え、借金て、何があったの?」
「え、えっと、ですね」

しどろもどろと話す善逸。それを聞いた私の心境をどなたか察してくれないだろうか。女の子に貢いで挙げ句捨てられたって…しかも貢いだお金は他の男とのかけおち費用だったとか。

「本当はさ、音で聞こえてたんだ、嘘ついてるって。」

故郷の親が病気でお金がいる。勤め先で預かったお金を失くした、理由は様々だった。嘘でしょそれ、って言うのは簡単だけど、きっと違うんだ、何か理由があるんだって信じてたんだ。

「でも、やっぱり騙されちゃってさ」

えへへと泣きそうに笑う善逸がたまらない、何か色々。もう、あの頃の私をぶん殴ってやりたい!だって、夢の中でも会っていれば止められたかもしれない、そんな女やめときなさい、借金の肩代わりしてくれる?怪しすぎる、もっと違う方法があるかもしれない、と。そうしたら、善逸は怖い思いして鬼退治なんて危険な道を歩くことなんて無かったかもしれない。たらればなんて考えたって仕方ないけどこればっかりは、無いでしょう。
神様って本当に居ないんだ。居たとしてこんな境遇の善逸に更なる過酷を与えるとか、どんな性格悪い神様なんだ。

「……善逸」
「なあに?」
「ぜーんいーつ」
「もう名前さん、なあに?」

ぎゅーっと抱き締めると善逸はえへえへと笑いながら身を寄せてくる。15になると言った善逸の体は名前が思うより小さくて細い。胸に去来するのは「たられば」な話で口にしても不毛なことだ。

「善逸、修行頑張って」
「もうこれ以上頑張れないってほど頑張ってるのに!?」
「もっと、頑張れ、善逸はやれば出来る子。私は信じてる」
「ええぇえええ!?まだ頑張るの!?」

そうだよ、頑張るの。そうして少しでも「死」を遠退けてほしい。私は善逸に死んでほしくない。
名前さん大丈夫?と泣きたいのを堪えた音を察したのかいつもと逆でよしよしと背中を撫でてくれる善逸。自分は辛い目に会って来て、人に裏切られて、なのに他人に優しく出来る優しい善逸、こんな儚い夢の中での逢瀬だけど、私はあなたがとても大事だよ。

「善逸大好き」
「俺も名前さん大好き!」

この寂しくて優しい子を幸せにしてくれる誰かがいつか現れてくれやしないか。性格が悪いだろう神様とやらに問うてみたくて仕方なかった。



神様はどこにいる