「こんばんは善逸、また泣いてたの?」

今日はどうしたの、あんまり泣くと目が解けちゃうよ

そう言って俺を撫でてくれた人は夢の中に現れてくれない。ああ、やっぱり。やっぱりそうなんだ。みんな俺から離れて行っちゃう。仕方ないよ、俺はそんな風に生まれてしまったんだから。かわいそうも不憫も憐れも全部全部俺の為にあるような言葉だもの。だからそんな音が相手から聞こえても仕方ない。
なんとなく、あの人は他の人と違うんじゃないかって思ってた。
あの人の音は今まで聞いたら事がないぐらいあったかかった。こっちが恥ずかしくなるくらい「かわいい」「いい子」って聞こえて、それから俺の目を見てる様な時はちょっとだけ鼓動が早くなる。それから「善逸の目はとても綺麗」なんて言ってくれたんだ。
だからさ、「かわいそう」って聞こえた時に、胸の中でピシッと罅が入る音がして、ああこの人もそうなんだって。でもしょうがない、俺はかわいそうだもの。けど、名前さんからはものすごく後悔の音が聞こえた。キリキリキリと軋む様な音。それが少し嬉しかった。
やっぱりそうだ、この人は他の人と違うんだって。
普通の人は、自分が思ってることが俺に聞こえてるなんて思わない。それに傷ついてる俺が居るなんて考えもしない。だけど、名前さんは違ったんだ。俺の耳の事を理解してたのに傷つけてしまって、ごめんって。そんな人、今まで居なかったんだよ。だから、気にしないでって。優しい名前さんにそんな悲しい音、させてほしくない。

だからまた頭を撫でてほしい、
いい子だね、って音を聞かせてほしい

ねぇ、
会いたいよぉ、名前さん
もうずっと会ってないよ、
もう会えないの?
ねぇ、
待ってるからさ、
もうずっと待ってるんだよ
だって言ったじゃない、きっと意味があるって



 


「こんばんは善逸…あんまり泣くと目が溶けちゃうよ…?」

「う、うえぇええ、名前さんんん」

伸ばした手を掴んだのは善逸より柔らかく少し大きな手。


「あい、会いたかったよお、ずっと…待ってたんだからぁっ、」

「ごめん、ごめんね、善逸…」

音を見上げれば、とても泣きそうな顔をした女の人がいて。
でも驚かなかった。「ああ、名前さんだ」ってすぐにわかったんだ。
本当にごめんなさい
そう謝って抱きしめてくれた温もりに俺はしゃくりあげながら、ただただ泣いた。



見えないあのひと