帰りに夕飯の材料を買いたいからと名前さんと八百屋や魚屋を見て回る事にした。今日の夕飯なぁに?と聞けば何が食べたい?っていつも聞き返される。でも俺は「名前さんが作ってくれるものはどれも好きだからなんでもいいよ」と答える。そうすると彼女は「それが一番困るのに」とちょっと困った様にでも照れ臭そうにふにゃっと笑う。たまに見せてくれる俺だけに向けるその表情、そんな仕種に胸がキュンキュンするんですけど!キュンキュンして心臓止まりそうになるんですけど!!あああああ!俺のお嫁さんが可愛くて死にそう!

「善逸、なんか大丈夫?」

思わず電信柱に手を付き早鐘を打つ胸を押さえていた。疲れた?なんて上目遣いな名前さんにまたもや心臓が掴まれた気がする。

「だだだだ大丈夫大丈夫ですよ!そ、そうだ!コロッケ!コロッケ食べたい!」

うん、わかった。ちょっと待っててね。と八百屋に入って行く名前さんを見ながら落ち着け俺、落ち着け善逸と深呼吸する。

基本的に名前は淡々とした人間で、善逸と初めて会った時から口調も態度も表情もそう。善逸が感情の起伏の振れ幅が大きいのに対して名前は少ないと言えばいいのか。そのせいか周囲からは年上女房でしっかり者、未だ泣いたり喚いたり落ち着かない善逸とはちょうどいいなんて言われてる。

確かにそう思う。"あの"当時から年齢は上であったから年上の貫禄?心の余裕?とりあえず善逸とは違う人間の大きさみたいなのがある。澄ました態度や言動をする方が多いそんな名前がたまに見せてくれる子供っぽい気の抜けた表情とか、男心をつかみにくる仕草とかに善逸は色々なものを持っていかれる。特に夜、所謂夫婦の時間とか…営みとか、打って変わったみたいに善逸に甘えるようにすがり付く様と言ったら!
ヤバい、鼻血出そう…

「おっ、奥さん今日は自慢の旦那さんと一緒かい!」

「へあ?」

「ちょ、ちょっと、」

名前と喋っていた八百屋の主人が人好きする顔を善逸へ向けていた。威勢の良さそうな50代くらいでどの店でもそうだが気っ風が良さそうな風体だ。名前がひどく慌てた様子でその親父に「やめてくれ」と訴えていたがニヤニヤとして意に介さない。ちょっとうちのお嫁さん困らせるのやめてくれませんかね!善逸が頑張って言おうとしたのだが割って入ってきたのは「あんた、いい加減にしなよ」と、ちょっと呆れた様子のおかみさんの声。

「うちの旦那がごめんよ、いやね、いつも贔屓にしてもらってるから気安く話す機会が多くて。」

「は、はぁ、」

「ご主人!この馬鈴薯とキャベツください!」

居たたまれないのか名前が代金を支払う為に店の主人と善逸から離れた隙におかみさんがこっそりと教えてくれた。それを聞いた善逸がもう俺いつ死んでもいいかもと思っても仕方ない。

「自分のことは後回しで人の為に走り回ってる、一番尊敬する人だってさ」

「……(ぎぃやあああ!とんでもねぇ名前さんだ!!)」

声に出さなかったのは善逸も多少成長した、と言う訳ではなく「大声出したらもう手を繋がない」という名前の言葉を思い出しただけである。が、脳内混乱が凄まじい。

うそでしょ!?なにこれなにこれ何のご褒美なの!くっそ可愛く過ぎるでしょうが!!てか、ヤバい俺もなんか恥ずかしい!死ねる!!いや、まだ死ねない!でもホント死んでもいいかも!ちょっとどんな顔すればいいの!?助けて炭治郎ーー!!
と全く関係のない友人に助けを求める程。

会計を終えた名前が戻って来たのだけど善逸の様子からあらかた悟ったようでさっきから凄いドキドキ心臓が鳴ってるのが聞こえるし頬がほんのり赤い。

「…か、帰ろっか、」

「う、うん。」

「毎度あり!」

「また寄っとくれ」

そう送り出されて、お互いなにやら気恥ずかしくていたがどちらともなく手を伸ばして指を繋いだ。その指先をギュッと掴んだ名前が小さな声で、でも善逸には十分聞こえる声で、いつもそう思ってるのよ、と。
それは善逸の色々、諸々にトドメを刺すのに十分だった。

………今日めちゃめちゃ抱こう、

その日の夕飯のコロッケの味はきっと美味しかったはず。お味噌汁も青菜の胡麻和えも、名前が漬けてる糠漬けもきっと美味しかった、はず。食後に出たいちじくも。

だが、善逸がその日一番美味しいと堪能し覚えていたのは、大好きなお嫁さんなのだったりする。






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