(悔いなき選択ネタあり)


空が見たいな。
なにものにも遮られることない空が。

そう言ったナマエにリヴァイは眉を顰めファーランは苦い笑いを浮かべるしかない。


『ご、ごめんなさい。言ってみただけ。』

「なぁ姉貴!じゃあさ、俺がいつか見せに連れてってやるよ!」

『イザベルは優しいね。そうだね、いつかみんなで行けたらいいね。』


彼女がイザベルの頭を撫でれば妹分のイザベルは嬉しそうに笑った。軽く流したナマエだけれど、それはきっと本音で。だからこそファーランの胸にそっと留められたのをリヴァイだけが気づいていた。







二人はもう帰ってこない


4人で住んでいたアジトに一人待っていたナマエにそう告げる。『お帰りなさい!』と元気よく迎えて、リヴァイさんだけ?ファーランとイザベルは?喜々とした表情が見る間に崩れていく。


『…ファーラン、は?』

「……」

『イ、ザベルは?』

「……」

『……どこ?』

「もう、いない」


真っ青になりその場に崩れるように座り込んだナマエは床に突っ伏した。肩を震わせ嗚咽を漏らし、二人の名前を呼ぶ。




俺はあいつに空を見せたい。例え壁に遮られていてもいい、空と花と川と大地を。



リヴァイには言っておくかな。あいつは、ナマエはこの世界の人間じゃないんだ。
はは!おかしいだろ?俺も始めは何言ってんだって笑い飛ばしたんだ。

だけど一緒に暮らしてくうちに、あいつはこの世界の人間じゃないんだって納得したよ。

あいつの世界には巨人なんか存在しなくて、広い大地に人類が平和に暮らしているんだ。身分なんてなくみんな平等でさ、日の当たる場所で事故や病気でない限り寿命を全うできるんだってさ。

空が当たり前に空にあって、花が咲く大地があって、それに「ウミ」って広くてでっかい湖があるんだそうだぜ!いっぺん見てみたいよな。




ファーラン、お前が何故上に行きたがったのか、本当はあいつの為なんだろう。なら、お前が連れて行かなければ意味がない。


『…ファ…ラン、イザベルッ、…ファーラン、ファーラン!』



なぁリヴァイ…、いや、なんでもない。みんなで生きて帰ればいいだけだ。


あの時、何を言おうとしたのか今ではもう分からない。お前は言わない選択をした。必ず「ここ」に戻ると決めていたからだ。


お前が居てくれれば、なんとか生きて帰れそうだ。


だが、それは叶わなかった。始めから仕組まれた駆け引き、俺のつまらないプライドが、ファーランとイザベルの命を奪った。


違う!巨人だ!
我々は無知だ!無知でいる限り巨人に食われ続ける!



そうかもしれない。そうなんだろう。だがそれはナマエからファーランを奪っていい理由にはならない。


『イザベル…ファ…ファーラ、ン…うっ、ひっく…』


なぁリヴァイ…


今から俺がする選択をお前は、お前達は許してくれるか?


リヴァイは床に突っ伏したまま泣き続けるナマエの肩をそっと掴む。
涙でぐしゃぐしゃに濡れたナマエの顔にリヴァイは初めて人心地を感じた。

きっとファーランもイザベルもここに、ナマエのいる場所に帰りたかったはずだ。


『ひっく…リ、ヴァイ…さん?』

「空を、見に行くぞ、」




あいつに空を見せてやりたい。

姉貴!じゃあさ、俺がいつか見せに連れてってやるよ!

いつか、みんなで行けるといいね




『そら…』

「ああ、空だけじゃねぇ、花も、木も、太陽も、」

『…ひく、で、も…もうファーラン、も…イザベルも…』

「いる。」

『…リヴァイさん』

「あいつらは、ずっと居るだろう?」


自分の胸を指してみせたリヴァイにナマエは両手で胸の上を押さえた。そうしてまた一粒、涙が頬を滑り落ちてゆく。その雫がリヴァイにはとてつもなく清廉に映った。

お前から大切な者を奪うことになってしまった俺にも、同じ涙を流してもらえるだろうか。

そうであればきっと自分は最後の最後に救われるような気がした。



『リヴァイさん…』「あいつらの分まで、拝んでやるぞ、」

『…っ、』


力強く頷くナマエに手を差し出す。

彼女には選択権などない。リヴァイの手を掴むしかない。それでもリヴァイにはナマエの意志が必要だった。
もう戻れないからこそ、自分で前に進む選択をしたという強い意志が。


しゃくりあげながら、リヴァイを見つめ、ゆっくりとリヴァイより小さく白い手を乗せる。その手を確かめるように握ったリヴァイは彼女を引き上げてしっかり両足で立たせた。それでもまだ震える体を励ますよう握る手に力を込めた。

もうこの部屋には誰もいない。ファーランとイザベルの遺志はリヴァイの中にある。必ず守る、仲間が守りたかった彼女を。


『リヴァイさん…』

「なんだ、」

『これからはもう泣かないから、少しだけ、ちょっと、だけ…泣かせて…ください…』

「ああ、」



君が救える幾分かの世界の話

もう二度と泣かせない、だから今だけだと、初めて抱き寄せた体は小さく細く、リヴァイの胸を締め付けずにはいられなかった。



初出2015.2.18 吾妻