こちらには男前で素敵で人類最強の兵長はいらっしゃいません。何でも許せる方のみどうぞ









きれい――


初めて"彼"を目にした私はそれに魅入られた。

青空に線と弧を描きながら舞う姿は、自由に翼を広げて羽ばたく鳥のよう。立体起動を意のままに扱い縦横無尽に林を、空を翔ける。彼の背中の翼が誇らしげに翻る。その姿はただ、ただ美しかった。


地に囚われず、壁に遮られることなく、風を纏いどこまでも飛んでいける。

人類の希望
最強の戦士

私の憧れ

何の迷いなく調査兵団を選んだ。
憧れのあの人の、リヴァイ兵長の近くにいけたらと、あの人の力になれたらと、

















「おい、ナマエよ。俺と結婚しろ。」



真っ白である。
何が真っ白って私の頭の中ですが、髪の毛も真っ白くなりそうってかハゲそうな気がする。ここは食堂でしかも二カ所ある出入り口のドア付近。だって私は今まさに朝食を取ろうと同期と足を踏み入れたところで、当然食堂には上司に先輩後輩同期と大勢いるわけだがその大勢の声とか物音がまったく聞こえてこない。食堂のおばちゃん達のお皿を触れ合わせる音どころか息すら皆さん潜めているよう。

その静けさが怖くて周りにウロっと視線をやると、食堂中の視線が自分に集まってる。コワイ。しかも一番痛いほどの熱視線を送ってきてる相手が目の前に。

うん、きっと私まだ寝ぼけているんだ。いやまだ夢の中で目覚めてさえいないんだ。私の目の前に兵長がいるわけがない。あまつさえあんなセリフを吐くわけもない。夢は願望の表れだとよく聞くが…憧れてはいるけど私は決して兵長と結婚したいだなんて思ったことも考えたこともない。だって彼は人類最強様である。雲の上のお方である。それに私は兵長と話したこともないし、実は面と向かって言葉を向けられたのもこれが初めてだったり。


「おい、聞こえなかったか?結婚しろと言っている。」


おかしい。おかしすぎる。初対面の会話じゃない。兵長顔コワイ。誰か助けてくれないかと、隣にいたはずの同期に目をやれば瞬時に首を反らされた。


「喋れねぇわけじゃないよな?今すぐイエスと言うか、削がれるのがいいかどっちだ。」


削がれるって何ですか兵長。仮にもプロポーズする相手を殺してどうすんですか兵長。てか選択肢が結局一つしかありません兵長。

だんだんイライラしてきたのかコツコツと兵長のブーツが床を叩いている。それに伴いやたら空気も重たくなっていく。周りの皆さんが兵長に気を使って「はやく答えろよ!」「結婚受けろ!」「息ができないからはやく!」「巨人に殺される前に兵長のオーラで圧殺とかいやだ!」とか…聞こえる。すみません、結婚も何もお友達からすら始まってません兵長。


「友達からだと?ふざけんじゃねぇお前とは避妊をするつもりはない。中出しして責任云々言われるのも面倒だから結婚する。孕んだら産めばいい。子供は嫌いだがお前との子なら可愛いだろう。」

『兵長が素敵なんだが最低なんだかわかりません。』

「大丈夫だ女を喜ばせるテクには自信がある。」

『最低です兵長。』




とりあえずは



丁重にお断りします



初出2014.12.3 吾妻