『リヴァイって色々ちっさいよね』
「…喧嘩売ってんなら定価で買うが。」
『やだなぁ、外観的な意味じゃなくて人間的な意味だよ?』
「なんのフォローも出来てねぇ。割増で買い上げてやる。構えろ。」
『わぁお、兵長様は気前がいいね!今度奢って!』
「てめぇに「今度」は無い。」
そう言うや否や蹴りを繰り出した兵長様。危ないなぁ!危うく顎が粉砕されるところだった。いやはやしかし気が短い。堪忍袋の緒も短い。ついでに身長…
『うぉっ、と!?』
思考を分断するかの如くナマエの脳天目掛けて落とされた踵落としを寸でのところで避けると、繰り出した当人が盛大な舌打ちをかました。
『いきなりなにすんのよ!』
「…てめぇの抉れてる胸に聞いてみろ。」
『誰が貧乳って!?』
「世界の貧乳に謝れ、貧乳はささやかながらも「乳」だがてめぇのは「板」だ。」
『むきーー!チビが偉そうに「乳」を語るんじゃない!』
「因みに俺は巨乳より美乳派だ。」
『あんたの好みなんか知らないわよ!それを言うなら私だって背の高い男がいいよ!』
踏み込んでアッパーを食らわせようとするもリヴァイは足を半歩引いて避ける。と、ナマエの顔面を目掛け足を蹴り上げるがリヴァイはピタリと動きを止めた。
「おい、てめぇどこ狙ってやがる。」
『何の躊躇もなく女の顔目掛けて蹴りを繰り出すサイテー男の股間☆』
確かに何の躊躇もなく女の顔面を狙ったが、男の急所を狙う軌道に一寸の迷いがない彼女の足にリヴァイの股間が竦んだがそれは胸中に秘めておくこととする。
「おい、足を下ろせ。役に立たなくなったらどうしてくれる。」
『そっちが先に下ろしなさいよ。お嫁にいけなくなったらどうしてくれるの。』
「は…嫁だと?板のくせにまだそんな夢見てんのか。」
『まだ引っ張るか!』
器用に片足立ちの態勢から足を下ろせば双方すかさず間合いをとってまた組掛かる。因みに今は対人格闘訓練中ではないし、訓練場でもない兵舎の中庭である。なので当然と言うか他の兵士達もいる。しかもちょうど昼休みの時間帯、昼食の後の穏やかな時間を陽当たり良い中庭で過ごしていた彼らは巻き込まれては堪らないとばかりに二人を遠巻きにしていた。そんな兵士の垣根を見つけたのはミケとハンジ。
「なになにー?なんか面白いことでもやってるの?」
「スン…この匂いはリヴァイとナマエだな。」
現れた分隊長二人に垣根が割れていく。「あー悪いねー。」なんてハンジののんきな声も開けた視界の先にいた二人の様子に目を丸くした。
いい年した男女が土まみれ埃まみれ草まみれで取っ組み合いをしている。それはもう子供の喧嘩のようにだ。髪を引っ張ったり噛みついたり。
『痛い!髪がもげる!』
「どこ噛んでやかんだこのブスッ!」
『うるさいこの豆粒がっ!』
「言いやがったなまな板が!」
ハンジは腹を抱えて大爆笑。ミケは呆れたような大きなため息。いい年した大人二人がなにをやってんだか、と。とりあえず仲裁しようとあいだに入ろうとしたが
「こいつが悪い!」
『こいつが悪い!』
二人でお互いを指差しし合えば、指を差してくんなボケ!ばか!とまた取っ組み合い。ハンジは「息ぴったりじゃん!」とまたまた大笑いする始末で仕方なくモブリットとミケで二人を何とか引き離すことにしたの成功したのだった。
「...で、原因は何なんだ、二人とも。」
エルヴィンの執務室に引っ張り込まれた二人の前で部屋の主が書類を目にしながら見遣ればそこ。人類最強と謳われる兵士長と分隊長の1人であるナマエが結構ズタボロの姿で立っている。
男の方は右頬が腫れ左頬には見事な引っ掻き傷。ジャケットはよれて象徴であるクラバットは取っ組み合いの時どこぞへ行ったのか、珍しく首元が見えているがそれだけの所為でないのだろう。シャツのボタンが飛ばされたようで無残な姿。
対する女の方はいつも綺麗に整えている髪はぐしゃぐしゃで顔は、リヴァイなりに遠慮したのか擦り傷1つ。だがジャケットはこちらは袖が取れかけで泥だらけ。何故かブーツを片方履いていない。リヴァイのクラバット同様なのだろうか、一体何処に放りやったのだ。
「お前達の喧嘩はいつもの事だか、少しは自重しろ。新兵じゃないんだ、立場を考えろ。」
いい年をした、しかも兵士達から敬われる地位にある幹部が周囲の目も気にせずの大立ち回り。今頃格好の話のネタになってる事だろう。
「辛気臭い話よりはいいじゃーん」
「仲が良いのか悪いのか分からんなお前達」
同席しているハンジとミケは片や笑いながら片や肩をすくめる。リヴァイとナマエは一瞬顔を見合わせるも、『けっ』「ちっ」と吐き出して視線を逸らせる。これはかなり深刻かもしれないとエルヴィンが再度喧嘩の理由を問いただそうと口を開いた。
「で、原因は...?」
『エルヴィンには関係無い』
「大いに関係あるだろうが、今後の事を考えりゃあ...」
『はあ?なにが?どこがよ?』
「その言い方ムカつくんだよ、躾直してやろうか」
『力づくで押さえつけるしかないドSヤローが』
「...おいコラ、てめぇもういっぺん言ってみやがれ、」
『はっ、何度でも言ってやるわ、このくされ外ど、むがっ!?』
「こらー!ストップストップ!ナマエもこれ以上リヴァイを怒らせない!話が進まないよ!」
不穏な空気を察したハンジが慌ててナマエの口を塞いだ事で二次騒動を抑えられはしたが二人の間にはそれはそれは痛いほど冷たい空気が流れてハンジは鳥肌を立てた。
「もー、本当になにがあったの?近々璧外調査もあるんだし、あなた達が連携取れないと困るよ、ねぇエルヴィン?」
「ハンジの言う通りだ。君たちの力がいつもどれだけ被害を減らせているか..どれだけ兵士達の、」
「おい、やめろエルヴィン、」
リヴァイが苦にがしげに口を挟むがそれにナマエが嬉々として被せる。
『でしょ、そうよね!リヴァイはともかく私が居ないと困るでしょエルヴィン!』
ハンジを振りほどきエルヴィンの執務机のに両手を付いて身を乗り出し迫るナマエに思わずエルヴィンは仰け反る。リヴァイほどではないけれど匹敵する技術やセンスがあり、二人で組むといつも喧嘩ばかりしてると思え無いほど息が合い巨人をあっという間に倒してしまえる。どれだけの兵士が命を救われ希望としたかしれない。
「もちろんだ、君たち二人が居れば人類の勝利も近いだろう」
『ほらほらー、やっぱり私居なきゃでしょー!』
得意気にリヴァイを振り返るナマエ。が、リヴァイは既に彼女の隣でエルヴィンに鬼気迫る勢いで詰め寄っていた。
「こいつが居なくたって俺は巨人を絶滅させれる。一匹残らずだ。俺の実力はエルヴィン、てめぇが一番理解しているよな?」
「あ、ああ、そうだな」
「なら、こいつを外しても問題ないだろう」
『ちょっと!なに勝手に言ってんのよ!』
「待って待って!なんでそこでナマエを外す話が出てくんの!?」
「...何か理由があるのかリヴァ...」
強力な戦力を事もなげに外すと宣ったリヴァイに幹部が食いつくがナマエがまたまた被せる。
『何もない!』
「ある、とっとと引退して女房らしく家で俺の帰りを待っててもらいたいからだ」
「「「えっ!?」」」
『あー!有り得ない!どこの関白宣言だ!仕事しながらでもいいじゃない!』
「有り得ねぇ、仕事しながら?掃除もまともに出来ねぇくせにか」
『はぁ?私に一日中掃除してろっての?いちいちいちいち細かいダメ出し出されちゃやる気もそがれるわ!あんたのその細かい所とか考え方の狭い所とか色々まとめて一言でちっさいのよ!』
「こんの...また言いやがったな!」
「わー!!ストップストップー!」
リヴァイがナマエの胸倉を掴んだ所でミケがリヴァイ、ハンジがナマエをそれぞれ引き離す。流石のエルヴィンも会話の内容が唯ならぬことに二人の間に割って入った。
「リヴァイ、それにナマエ、私たちに良く分かるように説明してくれ、まず何故、喧嘩しているんだ?いや、違うな、二人ともどんな関係なんだ。」
『「は?」』
今度はリヴァイとナマエが呆気にとられ、次いで二人で顔を見合わせると気まずそうにエルヴィンに視線を向けた。
『え、えーと、すごい今更だから、あれなんだけど、私とリヴァイ...は、そのぅ、』
「付き合って2年だ。ちなみにそいつの両親には挨拶した。」
「え?え?それってさ、」
「結婚する。そしてこいつには兵団を辞めて家に入ってもらう。」
『だーかーら!それが嫌だって言ってんのよ!私はまだまだ巨人を倒すんだから!』
なんと言うことだろう。確かに喧嘩する程仲が良いとは言うが、まさかこの二人が恋人同士でしかも結婚とは、と幹部三人は驚きを隠せない。だってそうだろう、喧嘩の度に殴り合い、蹴り合い、投げあって、リヴァイの場合はとても好意をよせる相手にする仕打ちではなかったとハンジは思い出す。
「愛情の裏返しにしても...容赦ないよねリヴァイ」
「それを言うならナマエもだろう、まあ、仲が良くて何よりだ」
そうなれば良いとは思っていた。いつも任され負わされ託される男は感情を表に出さず静かに自分の中で消化していく。彼女といる時だけは(主に喧嘩をしている時だが)いろんな感情を曝してぶつかり合う。二人とも喧嘩し合った後はずいぶんとスッキリした表情をしていたから。
「リヴァイ、ナマエ、とりあえずおめでとうと言わせてもらうよ」
また取っ組み合いを始め兼ねない二人にエルヴィンかが祝いの言葉を述べればミケとハンジも「驚いたけど」「おめでとう」と拍手を送る。ナマエは顔を赤らめ、リヴァイは照れ隠しで顔を背けて祝辞を受ける。
「それならリヴァイの言い分も分かる。しかしナマエに辞められるのは正直痛いな。」
『問題ないわエルヴィン、私はまたまだ辞めないから!』
「てめぇ、旦那の言う事が聞けねぇのか。」
「まぁまぁリヴァイ、そのうち子供でも出来たらまた考えな、よ...?」
ハンジが言い終わる前、ニタリと口元を歪ませたリヴァイにその場にいた全員が嫌な悪寒に苛まれた。ナマエに至っては真っ青。
「クソメガネ、てめぇも偶には良いことを言う。見直したぞ。」
「いや、あの、リヴァイ、別に今すぐとかじゃなくてだよ、そのうちってだけで、それに授かりものだって言うし...」
「仕込むものを仕込んどかねぇと授かるもんも授からねぇからな。」
そりゃそうだけど、二人が恋人で結婚だけでも驚きなのにもう子供なのかリヴァイ。幹部三人の目の前から『嫌だー!助けてエルヴィンー!ハンジ!ミケェエ!』と叫ぶナマエがリヴァイによって引きずられていく。しかし止める術がない、止めるなよ、止めるなら俺がてめぇらの息の根を止めてやる、そう視線が訴えるリヴァイを止めれる人間などこの世に居ないのだ。
「めでたいが、戦力が...頭が痛い。」
「諦めろエルヴィン、それにこれからリヴァイがナマエの分も働くだろう。あいつは有言実行する。」
「あー、じゃあ子供もきっちり仕込んで来るよねぇ。結婚祝いと妊娠報告一緒になりそう!」
ケタケタと笑うハンジにエルヴィンとミケも同感と笑いを零す。残酷な世界だからささやかな幸せが愛おしい。
『抉れた乳に興味ないんでしょ!』
「今まで散々その乳を可愛がってきたんだか?」
今それを言うかと恨めしげに見てもどこ吹く風。そうして意外に執念深い彼は宣う。
「色々ちいさいと言ってくれたが、それが妥当かどうかコトが済んだら聞かせてもらおうか」
そっちは入ってない、そっちじゃないよ!なんでそっちなの!私が言いたかったのはそれじゃないよ!などと叫ぶがどんどんエルヴィンの部屋は遠くなる、助けは無い。反して近づくリヴァイの私室。
『まだ巨人絶滅させてない!子供生むのも不安!なので現役希望!』
「まだ言うか。安心しろ、巨人は俺が絶滅させる、なのでお前の現役続行はない。」
『リヴァイのクソヤロー!』
「黙れこのクソあま!」
廊下を歩く二人を「また喧嘩か」と見送る兵士達。そうしていつも言う。「喧嘩するほど仲が良いっていうけどいつも喧嘩ばかりだな」と
喧嘩するけど仲が良い
その後二人の報告に全兵士が驚き、信じられないと真偽の程を幹部に確かめる次第だったとか。
初出2017.1.8吾妻