リヴァイ兵長と言えば我が調査兵団の実力者、民衆の希望、一個旅団の力を持ち二つ名は人類最強。無表情であるけどお顔は美々しく、言動は少しばかりキツいが部下思いで。潔癖症を差し引いてもいい男である。

その人類最強が私を恋人にしたのですが、なぜ私を?と疑問符ばかり。もちろん、兵長が好きという感情を持っていたので彼が私を見上げながら「お前が好きだ。俺と付き合え。」そう告白をされた時には飛び上がるほど嬉しかった。

しかし、やはり何故私?なのです。

もちろん好きになる理由なんて言葉にする方が難しいと思う。相手を意識し始めるきっかけなんて些細なもの。

しかしながら私には兵長の目を引くきっかけとなった要素が思いつかないのです。容姿は悲しいかな十人並み。ナナバさんやハンジ分隊長のように美しくない、ペトラ先輩みたく可愛らしくもない。女の子らしく見せてみたくてリップを塗ったら「似合わねぇ」とハンカチでゴシゴシされてしまった挙げ句、そのハンカチは速攻ゴミ箱に。兵長色々ひどいです。

髪だってミカサみたいな真っ直ぐな黒髪でもクリスタみたいな綺麗なブロンドじゃなくてくすんだ赤茶色。一番のネックはなんと言っても身長。周りを見回しても兵団の女性の頭は私より一つ分下。ハンジ分隊長とどっこいどっこい…すみません嘘ですハンジ分隊長よりちょっと高い…あ、これか。この身長が兵長の目に入ったんですね、きっと。

男の立場から見て自分より背の高い女ってどうなんでしょう?こう、プライド的な何かが傷ついたりしないのかな?それにこう言ってはあれだけど兵長は一般男性よりも、その…ねえ?


「おい、クソが詰まったみてぇな小難しい面すんな。茶が不味くなんだろうが。」


すいません兵長。そのセリフでまさにお茶が不味くなりそうです。

自分的にも上司もとい彼氏を見下ろすのは気がひける。隣に座って妙なカップの持ち方で紅茶を啜る兵長を見るもやはり若干目線を下へ。


「なんだ?クソなら行ってこい。」


不意と視線に気づいた兵長が私を見上げて一言。なんてデリカシーのないお言葉。いや、これはそういった事を口にし辛い女性に対する兵長なりの優しさなのだ。…多分、恐らく、きっと…やっぱり多分。

すみません、トイレじゃないんです。と応えれば「言いたいことがあるならさっさと言え」と睨まれました。その視線怖いです兵長。

『あの、ちょっと聞いても?』

「なんだ?」

『あー、えー、とですね、兵長。』

「だからなんだ。」

『そのぅ、』


いざ!
と思ってみても真顔でこちらをじーっと見ている兵長に『私のどこが好きなんですか?』などと聞けるわけないですよ。
それって他人様の口から良い部分を語ってもらって自分を安心させる自己満足的な…嫌だ。やっぱり止めよう。


『明日は晴れますかね?』

「………お前はそんなことを聞く為にクソが詰まったみてぇなツラしてたのか?」

『え、あ、いや‥大事なことじゃないですかっ!だって、ほら!あのっ、明日は内地にご用があるって、』

「面倒くせぇこと思い出さすな。」

『す…すみません…』



シュンと肩をすぼめて兵長を見下ろすも眉間の皺が三割増しになって機嫌が悪化したみたい。こ、怖いです兵長!

二人でいても気の利いたことも言えないのに、ご機嫌の取り方なんてわかるはずもない自分に改めて何故自分なんだろうかと疑問ばかり。

これ以上小さくはならないとわかってても背中を丸めカップを両手で包んでため息が出ないように紅茶をコクコク飲み込んだ。


「……悪くない。」

『はい?』


え?なにが?
悪くない。ってなんですか?なにがですか?
発した兵長と言えば、相変わらずの無表情ではあるもののどことなく柔らかい目をしていた。
一体何が「悪くない」のかキョロキョロと自分の体を見回すけどさっぱりわからない私を兵長がふっと笑う。

思わぬレア物を目の当たりにした私は一瞬フリーズしてしまいました。だって兵長が!あの兵長が…笑った!だとっ!?

もしかしてこれは私の死亡フラグが立ったの?私死ぬの?次の壁外調査で死ぬの?


「お前はでかいくせに仕種が小動物みたいだな。」

『は…え?』

「俺の言動でいちいちビクついたり、…悪くない。いや、むしろ、いい。」


………


兵長…もしかして、ちょっと病みが入ってたりしてるのかな…。なんかとても不安感に苛まれるんですが、私はもしかして巨人が理由じゃなく兵長が原因で死ぬんですかね…?


『兵長、私のどこが好きなんですか?』


あんなに躊躇していた質問がスルリと口から出た。人は命の危機に晒されるととんだ暴挙に出れるんだ、と脳内自分辞書に書き加えることとする。

兵長は私の質問に「ふっ」と笑い口を開いた。


「ナマエよ。」

『は、はいっ!』

「俺はお前の全てに惚れている。」

『はっ、い!あのっでも!』

「背の高さもお前の個性の一つと思えば可愛いく見える。」

『!!』

「キスしたくなりゃお前の胸倉を掴んで跪かせればいいだけだ。もちろん、俺的にはそっちの方が楽しいがな。」


どうしよう。ときめいた直後に寒気がした。


「だが、」

『わっ!?』


ぐいっと引っ張られた胸倉。もしや早速地べたを這わされるんですかっ!?ソファーから叩き落とされるんですかっ!?
恐々と兵長を見下ろしていれば兵長がニヤリと笑う。


「そうやって怯える姿が一番そそられる。」



哀れな羊が狼に食べられたお話



初出2015.11.2 吾妻

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少しヤンが入った兵長を目指してみましたけど…わかりにくいかな(汗)