見渡す限り雪、雪、雪。
独眼龍が治める奥州の地は昨夜から降り積もった雪で見事な雪化粧。

その独眼龍の館、伊達屋敷では朝から威勢よい声が響く。


「Are you ready guy!?いいかてめぇら!遠慮は無用だ!」


広大な鍛錬場の東側を陣取る蒼い着物の男、それは言わずと知れたこの奥州筆頭である政宗が、そばに控える男達に檄を飛ばせば「任せてくださっス筆頭!」と野太い声。

それに対し西側にはちょっとばかり着膨れした女が陣頭に立ち高い声をあげた。


『こっちも負けないんだからね!!今日は無礼講!主だろうが筆頭だろうが関係なし!勝ったらみんなに名前ちゃん特製団子プレゼント!』

「「うぉおおおお!」」

「Wait!んなの聞いてねーぞ!俺も欲しい!」

『残念!政宗さんの分はない!』

「…well、そうなら勝ってぶんどるまでだ!いくぜ野郎共!」


そうして互いの兵達は大量に作られた雪玉を手に構えたのだった。






あまりの寒さに火鉢に張り付きっ放しの名前だったがこの雪には大いに喜び防寒もそこそこに庭に躍り出た。
まっさらな雪に自分の足跡だけつくのが面白い。ザクザクとあっちこっちと踏みしめていると、この城の主が諸手を袖に隠し呆れ顔であらわれた。


「うー寒ぃ!朝っぱらからなにcrazyなことやってんだ。風邪引いちまうぜ。」

『もーにん政宗さん!いやだって私のいたとこじゃこんな雪積もることなくて!』

「morningな。お前んとこ雪降らねェのか?」

『降らないことないけどめったに積もらないなー。積もったとしてもこんなに綺麗じゃないし。』


彼女の部屋の火鉢に手を翳した政宗が珍しげに名前を見やる。件の人物は足跡を付けることを止めて雪玉をせっせと作り転がしている。

彼女、名前は1年前なんの偶然か縁か未来の世界というところからこの奥州にやってきた。

道端でうずくまって泣いていたのを腹心である小十郎の姉、喜多が拾い、養妹としたところ政宗が目をつけて傍女中に城に留めたのが始まり。

未来の話、それは片倉姉弟と政宗と名前だけの秘密。それは政宗の中の優越感を満たしてくれる。はっきり言って政宗はこの未来からきた女に惚れている。

なんとかして振り向いてもらいたくあれやこれやと行動を起こしているが、鈍い名前には伝わってない。

そろそろ決定打を打っておかないとまずい。それでなくても最近若い部下が彼女を熱い眼差しで見ていたり、家臣共が自分の息子の嫁にと画策してるとかしないとか…不穏な噂は尽きないし。
どうしたもんかと日々頭を悩ませる奥州筆頭なのである。


『政宗さーん、見て見てー雪だるまー!』


そこにはこんもりと一体の雪だるま。葉っぱで右目を隠してるから政宗なんだろう。ガキみてぇ、そう思いながら、自分を模した雪だるまを作ってくれた姿に、そこも可愛いんだよと思ってしまう政宗。


『ね、ね!政宗さん!雪合戦しようよ!』

「Ah?ゆきがっせん?」

『あれ?知らないの?雪玉をぶつけ合ってするんだよ。』

「…雪玉で人を殺るのか?」

『んな物騒な!遊びの一つだよ。これをたくさん作って相手に投げるの!』

「勝敗はどうやって決めんだよ。この雪玉じゃ相手は倒れねーぞ。」

『…えー、楽しくぶつけ合うだけでいいのに。』

「それじゃつまんねーだろ。勝負事はきっちりruleを決めとかねーと面白くねェ。hum、judgeをつけるか。」


とかなんとかで、審判に暇ではない小十郎が呼ばれ、雪玉をせっせと作っていたら部下達が「手伝います!」と声をかけてくれた。

『あ、じゃあもういっそのことみんなで一緒にやろう!』と名前の一声で伊達軍を二分する雪合戦が開催されることになった。

ルールは簡単。相手の大将に雪玉を当てた陣の勝ち。

「はじめ!」

小十郎の声に雪合戦の火蓋は切って落とされた。






鍛錬場は男達の熱気とぶつけ合う大量の雪玉であっという間に真っ白に覆われた。発案した名前は正直…引いた。

伊達政宗は確かに有り余る才知と才能の持ち主であるがいかんせんガキ大将みたいな部分もある。
そのガキ大将の部分が遺憾なく発揮されていて、また部下は城主に似るのか、体は大人、心は子供な彼らはものすごく雪合戦を楽しんでいるのだ。

『ぎゃー!あれ雪玉違うよね!あれ岩だよね!!誰よあんな雪玉作るやつ!』

「安心してください名前さん!!俺が身に代えても…ぐえっ!」

『左馬之助さんんん!?』


確かに自分の代わりに雪玉…を受けてくれた彼は大きな雪の塊に押しつぶされていた。あんなん当たったら本当に死ぬ!
とりあえず圧死しそうな左馬之助を救い出さんとした


その時だ

「checkmateだ、名前」

ぶわっと雪靄を薙ぎ払い現れた相手陣大将、伊達政宗。駆けた勢いを殺すことなく名前をそのまま雪の上へ押し倒した。


『うげっ!政宗さん!?』

「Ya、隙だらけだせ名前、」


ニマリと口角を上げ勝利を手にし、ご満悦な笑みの政宗。負けたのは悔しいが…あの岩のような雪玉をぶつけられるよりマシだと名前は敗北を認めた。


『あーあ残念、政宗さんの悔しがる顔見たかったのにー。』

「Ha、残念だったな!戦と名のつくもんならgameでも負けるつもりなんざ無い。you see?」

『I see、I see、だからいい加減退いてください。背中が冷たい。』


押しのけようとするのにマウントポジションの男は一向に動かない。ただただ真っ直ぐ名前を見下ろしたかと思えば冷たい手で頬を撫でた。


『…政宗さん?』

「戦で負けた奴はどうなると思う?勝ったモンに運命を委ねるしかねェんだ。国も民も家族も命もなにもかも、」

『え?政宗さん?これは、あの、遊びの一つ…』

「Gameでも勝ったモンは利益を主張していいよな?それが勝利者の権利だ。」


この合戦は好機だと政宗はほくそ笑んでいた。負けるつもりは毛頭ない、勝ちを前提に策を巡らすのは当然で、勝者の言い分を振りかざし必ず手に入れてやる、と。

そしてその瞬間は訪れた。絶対に手放さない、彼女の世界に帰さない。その為の言葉を、





お前の世界を捨てて、この世界を、俺を選んで俺の傍で生きていけ。
死ぬまでずっとだ。俺はお前と幸せになりたい。

「Please marry me」


彼女の冷え切った手をとり口づける。雪のように白いのに名前の顔だけ熟れた茱萸のように真っ赤だった。


『そ、そんなの、』

「否、は認めねぇ。俺の室にする。妾なんざ置かねぇ、奥州筆頭のただ一人の女だ。」

『…否なんか言わないよ。だって私…』



続く彼女の言葉を聞いて政宗はキスを落とす。
そうして周りの男達は祝福の声を上げたり男泣きしたり。

ちなみに雪合戦はとっくに鳴りを潜め二人の動向を窺っていたが気づいてないのは名前だけだったとか。




誰かのソバにいるということ

それは幸せかもしれない



お題たとえば僕が




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