いやいやいや、ないわこれ
豆電球のオレンジだけが灯る部屋。そこに不審人物がいたりする。
いや、不審人物と呼ぶには知りすぎるほど知っている様相。ただ、格好が常と違い不審すぎる。
寝たふりをしながら様子を窺う。本当になにしてんだろうか、私の恋人は。
ここは私の小さなお城、と言ってもしがないアパートの一室。1DKのその部屋は玄関お風呂とトイレ、キッチンを抜ければ8畳の部屋。少し古いけど大家さんも住民も親切で割と暮らし易い。
もちろん恋人を呼んでご飯をごちそうしたり、じゃれあってそれ以上も。だから彼がここを知ってるのも頷ける。しかし言っておこう、合い鍵は渡してはいない。
一体どこからとキョロキョロと目だけ動かせば、窓が開いている。ちょっと待って、ここ三階でしょうが。どうやって上がった。
三階と安心して施錠し忘れた私が言うのもなんだけど、恋人でなければただの犯罪者だよ銀ちゃん。いや、恋人関係ないか。恋人であってもこんなことはしちゃいけないと思います。
まぁ…その格好見たら空気読んで理解してあげれる?けど…。
赤い服に赤い帽子、白い付け髭に白い布袋を抱えてその姿はまさにサンタクロース。
もしかして仕事?
いやいや、まさかね!
だって数時間前まで万事屋でクリスマスパーティーしてたし、そんな仕事入ってるなんて聞いてない。それに銀ちゃん酔っ払ってたよね。
いやいや、それならなぜ私の部屋に?
悶々と考え込んでいると件の人物は「うっし、こんなもんか。」と小さな声。あ、よかった、やっぱり銀ちゃんだったと変なところで安心した。
よっこらせ、とオヤジ臭い駆け声で立ち上がったので慌てて目を閉じる。どうするんだろうと寝たフリを続けると私の頭を一撫でしてガタガタン、ドン、ガシャガシャと窓から出て行ってしまった。…結構大きな音立ててたんだ。気付かない私って…。
とりあえず何をしていたのかと視界を戻すとそこに、月の光にキラキラと反射するスノードーム。
思わず起き上がって持ち上げる。手の平に乗るドームは中に小さな可愛い家とクリスマスツリー。銀や白の紙がキラキラと舞っているシンプルなものだ。
『銀ちゃんらしい、』
確かにこれは私が雑貨屋で可愛いと手に持って眺めたもの。覚えててくれたんだ、と嬉しさで胸がキュンとした。でもなんでクリスマスパーティーの時に渡してくれなかったんだろう?この部屋にわざわざ届けにくる方が手間だろうに。
疑問符を頭に浮かべたままドームが置かれていたテーブルに目を戻す。暗がりの中に小さなメモ用紙。なんだろうと月にかざして文字を追った。
『銀ちゃん!』
窓を開けて見下ろした道路はうっすら雪が積もって、その中で赤い服を着て銀髪のサンタクロースが鼻を赤くして驚きながらこっちを見上げた。
「え、おまっ、起きてたの!?」
『あんなおっきな音立てたら誰だって起きるよ!ありがとう。覚えててくれたんだね、このスノードーム。』
「いや、そんなモンしか出来ねーから、」
頭をガシガシとかいて照れる銀ちゃんはとても男の子みたいで可愛い。馬鹿なこともするし、間抜けなとこあるし、危ないことばっかりに首つっこんでるし、いつも怪我してる。でも底抜けに優しくて大きな人。
だから
私も、銀ちゃんが大好きよ!銀ちゃんが許してくれるなら、いつもそばにいたいな。
銀ちゃんは「やっぱり泊まっていい?」なんて。
いいよ。だからちゃんと銀ちゃんの言葉で聞かせてね?
"いつも言えねーけど、愛してます"
ありふれた愛が愛しい日
ところでなんでサンタクロース?
とりあえずこの格好なら不審人物にゃ見えねーだろうと思って。
いやいや…十分不審人物だよ。来年は止めてね。
すんません。
お題たとえば僕が様
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