あ、雪だ。

目の前をふわふわと落ちていく淡雪。
そっと手の平で受け止めてみたものの、それはすぐに溶けてしまった。

首元から暖が逃げないようにマフラーを詰め空を見上げると真っ暗な夜空から儚い白が舞い落ちてきた。


『ホワイト、クリスマスか、』


きっと恋人と過ごすならとてもロマンチック。行き交う恋人達だって素敵な空からのプレゼントに微笑んでそっと寄り添いあってる。

そんな彼らを見ると、触発されて私も恋人に会いたくなってしまうじゃないの。

だけど、会えない、だって彼は仕事。市民を守る職務に就く彼にお盆正月関係ない。
街に人出が増える時には不逞の輩も増えると見回り検問と忙しない。
当然、クリスマスなんて街のそこかしこでイベントが催される日となれば警戒態勢に入ってしまう。
しかも自分の恋人は平隊士じゃない。副長なんて役職に就いている。責任感が強く何事にも率先して行動するから私生活はすべて後回し。


『ああー、真選組の人と付き合うって大変。』


わかっていたけど、こう言った「恋人の為の〜」が全面に押し出されたイベントがあると少し寂しくなる。私と仕事どっちが大事?なんてセリフを口にしたこともないし、しようと思わない。だってわかりきっているから。

だけど、ほんの少しでいいから、あの人の時間を私の為だけに使ってほしいと願う自分がいる。


『無理なものは…仕方ないよね、』


願うだけで口にしたことはない。それは彼を困らせるから。
それに彼は私を愛してくれてる。会えなくても、触れ合えなくてもキチンと態度と言葉で不安にならないよう示してくれる。

だから私の取るに足らないわがままで困らせるなんてできない。

今頃この寒空の下で、恋人である土方さんはあの鋭く瞳孔の開いた目を険しくして、街を見回っているんだろうな。
早く帰れますように。あ、そうだメールぐらいなら許されるだろう。



メリークリスマス
土方さん
お仕事頑張ってくださいね











「こら、んな寂しそうなツラでメール寄越すな。」


滲む視界に真っ黒のコートを着た恋人。違う、違うよ。ただ目にゴミが入っちゃったんだよ。そんな私の肩を優しく掴んだ彼はそのまま胸元に引き寄せてくれた。


寂しがらせてすまねー。今日はもうあがりだ。朝までそばに居てやれる。
だから一人で泣くな。泣くなら俺のそばで泣いてくれ。ちゃんと受け止めてお前を好きなことを何度でも伝えて触れて安心させるから。




ありがとう土方さん





君は笑顔で泣いていた


お題たとえば僕が

2014.12.22 吾妻




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