照りつける太陽に暑い暑いとわめいていたのは、ついこの間のことなのに、今は吐く息さえ白くなる冷え込みに寒い寒いと身を縮めてる。

寒いのは苦手だ。暑い方がまだ我慢が出来る。冷え性気味な自分に冬の気温は大敵、特に早朝の冷え込みなんて、壁外の巨人が可愛く見えるほど怖い。だって巨人は削げば存在を消滅させてくれるが冬はどんなに否定したって年を越えても居座り続けるんだから。


そんな冷え性な私の大好きな場所は当然暖かいところ。暖炉のある談話室、兵団共有の浴場、あとベッドの中。私の愛する恋人(場所)たち!どこも一度入ったら離れ難く、いつもいつも泣く泣く心を残しながら惜別している。
仕事終わるまで待っててね!必ずあなたたちのところに戻ってくるから!…と。

だからたまのお休みなんかはこの恋人(場所)たちの一人、ベッド(ジョージ)を日が昇り外気温が上がるまで堪能するのが冬の間の幸せ!

なのに、
なのに、だ


『いーやーだー!離してくださいー!』

「てんめぇ、そろそろ起きろ!今何時だと思っていやがる!」

『今日はお休みだから私が何時に起きようと兵長には関係ないでしょうよー!』


ぐいぐいと掛け布団を剥ぐ!剥がせるか!の攻防戦。


『うぎゃ!』


が、人類最強の力に敵うわけなく布団共々ベッドから転がり出された。


「さっさと着替えろ。汚ェツラをすぐに洗いに行け。だいたいなんだこの部屋はありえん。すぐに掃除を始める道具を持って来い。」

『兵長、私の体は一つしかないのですが、』

「大丈夫だ。お前ならやれる。」

『わかりました、着替えながら顔洗って水を撒き散らして床と服をびしょびしょにしたまま濡れたズボンで兵長の部屋まで掃除道具取ってきます。』

「道具は俺が取りに行こう。それまで着替えておけ、ちなみにこれ以上部屋を汚すことは許さん。」


そう言って踵を返す兵長。出て行ったら速攻で鍵を閉めよう。閉めてもう一度ベッドに戻ってぬくぬくを貪ろう。まっててジョージ(ベッド)!今すぐそこに行くよマイハニー!


「俺が戻ってまたベッドに居るようなら……削ぐ。」


恐ろしい形相と恐ろしいセリフに冷や汗がだらだら流れ無言で右手を心臓に当てて敬礼した。ごめんジョージ、君のもとへは帰れないよ…。

悲しんでる暇はない。10分で戻ると言う兵長はきっと5分で戻ってくる。慌てて着替えて顔を洗っていたら扉を蹴っておそうじ兵長が帰ってきた。速すぎる。


「始めるぞ名前。まずは机を廊下に出せ。」

『ええっ!?そこから!?』

「当然だろう。物を避けないで部屋の全てのゴミが駆逐できるわけがない。」


兵長は机に手をかけ「なにしてる。そっち側を持て」とウキウキしながらのたまった。


終わった…。
私の休み終わった…。

魂が抜けた瞬間だった。





「チッ、もうこんな時間か、仕方ない。今日はここまでにしよう。」

『ありがとうございます…。』


そうして日が暮れようとした頃私の部屋はそれはそれは美しくなった。光り輝いている。壁なんて、こんなに白かったの?と驚いた。

なのに兵長ときたらまだ掃除し足りないんですって。勘弁して。

とりあえずこれで解放してもらえるだろう。兵長もお疲れだろうし早くお部屋にお帰り願いたい。だって食堂行きたい。朝から何も食べてないお腹の空腹感は半端ない。


ご飯を食べたら談話室の暖炉(ロック)の所に行こう。あ、その前にお風呂(フレッド)に入って体の汚れを落としてからがいいかも。ぬくぬくに温まった体に温かいご飯食べて暖炉(ロック)の前を陣取って本を読む。体に熱を吸収したら最愛のベッド(ジョージ)に飛び込む。し、幸せ…!私の休暇はまだ終わってない!

だから兵長、早くお部屋へ戻ってください!

そう願ってるのに兵長はなぜか私のベッドに腰掛けてらっしゃる。

確かに平の兵士の部屋は兵長の広いお部屋と違いソファーもテーブルもない。簡素なベッドとシンプルな机と椅子、あとはクローゼットぐらいでお客様に腰掛けてもらうとしたら椅子かベッドだけど、なぜそっちをチョイス?

兵長は立ち上がる気配も見せず足を組み腕を組み…睨んでる?睨んでらっしゃる?え、なんで?

私ちゃんと兵長の手駒となりお掃除手伝ったよね…?手が届かない棚は四つん這いで台となり、天井付近では見かけに寄らず重…がっしりした体を肩車したよね?

あ、お礼か?お礼なのか?でもでもさっきちゃんと『ありがとうございます』言ったよね自分。汚い部屋を半日かけて綺麗にしてやったんだ。見返りがあって当然だよな何かブツ寄越せよ、的な?

てかたかが兵士の給料じゃ兵士長様が満足するものなんて…あれ?兵長て潔癖症だから他人から物をもらっても喜ばないんじゃない?そもそも頼んでないよ?あれ?そう言えば兵長って朝っぱらから私の部屋来てなにしたかったの?


もやもやと思考を巡らせていれば兵長から低い声で「名前、」とお呼びが。あまりの低い声にまたもや無意識に右手が心臓へ。兵長の威圧感半端ないっす。



「おい、この後予定はあるのか?」

『…食堂にご飯食べに行こうかと。その後談話室のロック(暖炉)のところに行こうと考えてますが、』

「…は?ロック…だと?」

「はい!私を体の芯まで温めてくれるんです!」

「体の…芯まで、」

『そのあとフレッド(お風呂)で体全体を心ゆくまでほぐしてもらって、ジョージ(ベッド)に包まれてゆっくり休みます!』

「フレッドに、ジョージ…」


残りの休日を堪能するために名前は力説する。が、リヴァイは何やらどんどん顔を俯けていく。そしてゆらりと立ち上がった。兵長も(ふらつくほど)お疲れなんですね!早くお部屋に戻ってゆっくりしてください!私もゆっくりしたいから!と名前は胸の内でホクホク。やっと自分の時間だと。

ゆらりゆらりといつもと違う動きのリヴァイを見送るべく見守っていたらドアに向かわない。

どころか名前に向かってくるではないか。

リヴァイの腕が伸びて名前の両肩をガシッと掴む。とんでもない重量に名前の顔が歪んだ。


『ぐげっ?へ、兵長!?』

「誰だ…。」

『…はい?』

「ロック、ジョージ、フレッドとやらだ。調査兵団じゃねぇよな…?」

『えっ!?はっ!?』

「駐屯兵団か?腐った憲兵団か?兵団の野郎じゃなくても関係ない。俺は今からそいつらを削ぎ落としてくる。」

『兵長ぉおおお!?』



ギリギリと掴まれた両肩と迫る凶悪顔。名前の血の気が下がり冷や汗が背中を流れて体がガクブルである。しかしガクガクしてる場合ではない。

すでに存在そのものが物騒になってしまったリヴァイ。何が彼をここまで悪鬼にしてしまったのか?自分の発言にどこが問題が?

……


『ロック…フレッド…ジョージ…?』

「そうだ、そいつらは今どこにいる。」

『…ここにいます、けど?』

「お前、堂々と男を部屋に隠してるってのか?」

『いえ…さっき兵長が腰掛けてました。』

「…は?」

『だから、あれ。あれがジョージです。』


名前が指差した先を辿る。そこにはベッド。さっきリヴァイが座ったあとがシーツに残っているベッド。


「ベッドだぞ。」

『ええ、ベッドです。』

「俺にはベッドにしか見えない。」

『ええ、だってベッドですもん。』

「…ジョージはどこだ。」

『いや、だから、あれがジョージです。』

「…」

『ちなみにロックは暖炉でフレッドはお風呂で私の大好きな場所です!』


私冷え性だからあったかい所が好きで、もういつも彼らに包まれていたいほどなんです!

名前の両肩を掴む力がこれ以上ないほど力を込められ彼女の絶叫が部屋に響いた。


「て・め・ェ・は紛らわしいんだよッ!」

『痛い痛い痛いー!兵長!縮む!縮むからやめて!』

「この俺が暖炉やベッドに殺意を抱いただと?まったく笑えねぇ。こんな辱めは屈辱的だ。どう責任取ってくれるんだ?そう言えば冷え性だそうだな名前よ。明日からの訓練は俺が直々に指導してやろう。体が冷える暇なんぞ与えてやらねぇ、これから毎日ずっとだ。覚悟しやがれ。」


溜飲が下りたとばかりにリヴァイは満足げに笑う。その笑顔は名前にとっては悪魔の笑み。


終わった…
私の人生終わった…
そう嘆かずにはいられない名前だった。











あれってあれだよね!もう告白だよね!勢いでしか告白できない三十路とか!ハンジさん笑う!

黙れクソメガネ…

しかも遠回しすぎて伝わってないし!

うるせぇ!

暖炉に嫉妬とか…ちょ、お腹痛い!あ、ちょっとちょっとエルヴィン聞いてよー!

おい!待ててめェ!





「大丈夫。人間、誰しも黒歴史ってあるもんだよ」




お題空を飛ぶ5つの方法

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