政宗様といっしょ | ナノ




\信じて待つことについて/
『政宗様、政宗様。政宗様はいつお戻りになるんですか?』


今は誰もいない政宗様の執務室。返ってくる答えはない。
いつもあの文机の前に座り肘をつき書面に筆を走らせていた政宗様。
その前では小十郎様が政宗様が執務から逃げないよう眉間に皺を寄せて見張ってらしたっけ。


「honeyはいつも突然だな。」


書面に見せていた難しいお顔を緩めて微笑みかけてくれる政宗様。それが嬉しくてつい『政宗様政宗様』と問いかけてしまう。だけどその笑いかけてくれた政宗様は幻で、すーっと部屋の空気に消えてしまった。


『静か…だなぁ…。』


政宗様達、伊達の軍が遥か東で戦をしていると思えないほど伊達屋敷は静か。戦況は途切れなく届いていて今は設楽原に向かわれているとか。

戦の事はわからない。だけど命をかけて政宗様達は赴いた。何の力も持たない私はここでただご無事を祈るばかり。


『私も戦えたならついて行けたのかな…。』


噂に聞く加賀前田や近江浅井のご城主の奥方様みたいに。
つねに隣にあい生きるも死ぬも一緒…。何より愛する人を守れるもの。

『あ、でも私ってどんくさいから政宗様の足を引っ張りそう。』

「名前さんここに居たんだ?」

『成実様。』


甲冑姿で現れたのは政宗様から留守居を預かった成実様。聞くところによると政宗様達と絶対一緒に行くときかなかったのを政宗様が宥め賺して留守居役を受けてくれたとか?


「梵達がいないとやっぱり静かだねぇ。」

『そうですね。』


部屋には入らず敷居の向こうで腰を下ろしてニカリと笑う成実様。
二人で政宗様が座る場所に目をやるといつもの声が聞こえてきそう。


おい成実、俺のhoneyに近づくんじゃねぇよ


って…




「さっきからため息ばかりだね。そんなに梵が心配?」

『そ、そりゃあ…。』

「梵の事大好き…だもんな、名前さまは。」


改めて、しかも人から言われると自分の気持ちが露わになって恥ずかしい。

だって本当は初めて会った時から政宗様のこと、特別になっていたんだもの。

どんどん熱くなる頬を両手で押さえていたら成実様が「梵が帰ってたら盛大に祝言をしなきゃな!」なんて言うから体中が沸騰しそうなぐらいに熱い。


「梵は大丈夫!あいつには小十郎も、それにどの軍にも負けない家臣がついてる。」



何より愛しい女が待っている。あなたの為にあの誇り高い梵が俺に頭を下げたんだ。


「頼む成実、俺の代わりにあいつを、名前を守ってくれ。」


それ程に大事なあなたを置いて、梵がどこに行くものか。


『そうですね!政宗様はお一人じゃありませんし…それに…。』

「それに?」

『政宗様は"竜"ですもの!』


だから必ずご無事で戻ってくる。馬上で腕を組み不敵な笑みで「帰ったぜ、honey」って…

その時には"あいらいくゆー"じゃなく政宗様が仰っていた"あいらぶゆー"をそっと伝えてみよう。




なのに





「成実様!成実様はどちらに!」

「ここだ、」

「申し上げます!設楽原にて我が軍が織田が家臣、明智の軍に敗れ撤退をいたしました!」

「なんだって!?」

『!?』

「そ、それから…」









政宗様が飛び道具を御身に受け
重体にございます!






ちゃんと戻ってくる。独眼竜は伊達じゃねェ



政宗様、政宗様
政宗様は嘘をついたりしませんよね?


ねぇ、答えて下さい
政宗様


再録2015.7.18 吾妻

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