世の中只今禁煙ブーム真っ最中。煙草は害だのエコによろしくないだので喫煙者の方々はなんとなく肩身が狭そう。それは学校の先生方もで煙草を嗜む方は言わずもがな校舎外、寒風吹き荒む中灰皿持参で肩をすくめて紫煙を吐き出してます。校舎の片隅にあるその場所へと中庭から降りれば冷たい空気が体を一気に冷やす。うー寒い寒い!

小さなプレゼントを手に足を急がせれば話し声、あ、居るかも。


『お邪魔しまーす。伊達先生…』

「Huw!わざわざ俺を探し…」

『…にくっついてる小十郎先生はいませんかー?』

「…shit!」

「はっはー、残念だったなァ伊達先生よ。」

「うるせーよ長曾我部。」


お寒い中各々携帯灰皿を持って煙草を吹かす麗しの隻眼ペア。一人は目元涼やか、流麗な眉、いつも孤を描く唇、その唇から発せられる甘くてエロチックなボイスは女性陣をメロメロにするとかしないとか、な英語教師の伊達先生。も一人は銀髪の髪にきりりとした眉と目。ワイルド、なんて言葉がまさに似合う男。人情味に厚く男女問わず人気がある技術と情報科学の長曾我部先生。

でも私はこのかっこいい!ともっぱらな評判のお二人に用は無い。
「Hey、名前。今日はvalentineだろ?chocolateはどうした?」

『私があげたいのは一人だけですのでごめんなさーい。それより小十郎先生どこですか?』

「名前の意中の相手たァ片倉先生なのか?随分堅ェのを選んだな。」

『そんな所が好きなんです!伊達先生!早く小十郎先生の居場所!』


クックッと喉を鳴らす伊達先生が視線を校舎の二階にあげる。それを察した私はお礼を言って再び校舎に舞い戻った。

廊下を小走りし階段を一段飛ばしで上がっていく。見えてきたのは物理準備室。


『小十郎先生っ!』

「廊下は走るんじゃねェ。ドアは開ける前にノックしろ、それから下の名前で呼ぶな。」

『小十郎先生、毎日毎日同じお小言言って飽きない?』

「…誰が言わせてるんだ。」

『はーい、わたしでーす。』


白衣姿も眩しい小十郎先生。後ろに撫でつけた髪、眉間によった皺。いつも目を顰めてるけど、ふっと吐息が零れたみたいに静かに微笑む小十郎先生。課題をして来なかったり授業中の態度が悪かった時にはすんごい低い声で静かに怒るのが怖い!だけど教え方は上手いし何より優しい先生をみんなは信頼してる。
そして私はそんな小十郎先生にずっとずっと想い寄せ中。先生に構ってもらいたいから呆れられようが煙たがられようが毎日小十郎先生を追いかける。

『小十郎先生はい!今年はウィスキーボンボンにしてみたよ。』


ダークグレーの包装紙に銀のリボンに包まれたチョコレート。このラッピングも気に入って買ったんだ。だって小十郎先生の雰囲気にぴったりだもの。だけど小十郎先生はプリントから目を上げただけ。


「生徒からは受け取らねぇ。」

『でた!毎年毎年同じセリフですよ小十郎先生。』

「そうだったか?」

『伊達先生や長曾我部先生や真田先生だって生徒からもらってますよ!』

「お前こそ毎年毎年同じセリフじゃねェか。」


長曾我部先生の言うとおり小十郎先生は色々お堅い。どんなに私が先生との距離を縮めようとしても一定のラインから絶対に踏み出さない、踏み込ませない。道徳心が人一倍強いのもあるのかもしれない。

でもそんなこと言ってたら私の恋心はいつまでもするすると躱されるだけ。受け止めて欲しいとか贅沢言わない。だけど、先生を本気で好きになる生徒がいることを知ってて欲しい。


『小十郎先生、私、憧れだけで3年間も先生を見てきたわけじゃないよ。』

決意を込め真っ直ぐに小十郎先生を見る。手の中のダークグレーのプレゼントを握りしめ。先生もいつもと違う私に何かを察したのかペンを置いて椅子から立って真っ直ぐに私を見てくれた。


『片倉先生、ずっと好きでした。』

「名字、俺は」

『先生の事だから教師と生徒なんてあり得んー!とか怒るんでしょ?でもね先生、私、卒業するんだよ?』


そんな枷、なくなったら私を拒む理由がなくなるよ?
ねェ、どうする?


挑むように先生を見上げたら眉を寄せて眉間の立て皺が深くする。それから目を閉じてふっと自嘲めいた笑いを零した。


「まったく、子供の癖にいつもいつも俺を振り回してくれる。」

『え、怒った?』

「いいや、」

『えっ!?わっ!わわっ!』


おもむろに屈んだ先生が私の膝辺りを抱え込んで持ち上げた。小さな子供がお父さんに抱っこされるみたいな?
いきなり視界が高くなり先生を見下ろす態勢。ちょっと待って!先生が近いよ近いよ!心臓が壊れそうな勢いでドキドキしてる!
『せ、先生!お、おお下ろして!』

「お前、俺といくつ離れてるかわかってるか?」

『え?えーとじゅう…6?7?で、でもそんなの…。』

「俺には関係あったんだよ。だが、もう、いいな。」

先生が今まで見た事ないすごくすごく優しい顔で私を見上げる。
私の想いが通じて先生が受け止めて応えてくれるんだって…

先生の首に腕を回してぎゅっとしがみ付いた。

『先生、大好き!』

先生は一呼吸置いて

「覚悟するんだな、もう遠慮はしねェ。」



チョコレートプロポーズ
「卒業したらすぐ籍入れるぞ」

『えっ!早くない?』

「今まで待ったんだ。もうこれ以上待てるか、いいな」

『…う、うん(小十郎先生って意外に強引かも)』



end