風が季節を運んでくる。ここ甲斐の国も夏が過ぎ短い秋の風が吹いている。
先日まで黄金色に輝いていた稲穂は無事に刈り取られ今は寒々とした姿の田んぼ。
赤や黄色に彩られていた木々も葉を落とし本格的な冬の到来を告げるよう。

「もうすぐ冬でございますな。」

『左様でございますね。』

私の先を歩む幸村様。
色を失っていく景色の中でこの方だけが鮮やか。いつも身に纏う戦装束は赤。武田の色。彼の熱き思いの色。

『また…戦に赴かれるのですね…。』

振り返った幸村様はわたくしの寂しい思いなど知らずにお日様のように笑う。
お館様について行くのだと、御守りするのが某の使命だと、何より刀を交合わせたい方がいるのだと、力強く熱く語る幸村様。

そんなあなた様に相槌を打ちながら胸の内で悲しんでいるわたくしがいるのをあなた様はご存知でしょうか?

いつ果てるともしれない戦場(いくさば)をあなた様は喜々として駆け抜ける。
主を守る為ならばご自分の命を敵軍にさらしひたすら忠の為戦い走り続ける。

わたくしは不安なのです。
わたくしの知らない土地で
わたくしの手の届かない場所へ
想いすら馳せない所へ
いってしまうのではないかと

無事を願う祈りなど自己満足でしかありません。だけど何ももたないわたくしには結局それしかできないのです。

『ご武運を…。』

「ご心配めされるな!姫様のお父君であるお館様はこの幸村が身命を賭して御守りいたします!」

いいえ、いいえ
わたくしがあなた様に守って頂きたいものはあなた様の命。どうかご無事で帰って下さいませ。

『幸村様も…ご無事で…』

俯き唇を震わすわたくしを赤い夕陽と赤い甲冑の幸村様が包む。

「某は死にませぬ。必ずや甲斐に、姫様の御元に戻りましょうぞ。」

お願いです。
この温もりを、この鼓動を忘れぬうちに
再び戻って下さいまし。



Promise
守ってくれなければわたくしは生きていけない