02.1

この世界はとにかく便利なモノだらけだ。

乗り物だけみてもいくつもあって日の本中を自分の足や馬でなくても行けるらしい。

掃除をするのは掃除機。
洗濯するのは洗濯機。
年中室内を快適にするくーらー。
遠くの情報を目の前で映すてれびにぱそこん。
夜を照らす照明、いつでも手に入る食料、火を興す必要ない竈、食品を冷たく保存する箱、動く階段、溢れかえる便利なモノ。俺様の時代からすりゃあとんでもない技術の進歩に恐れ入るばかりだ。

それなのに、まだこの世界は不便と無駄を省こうとしてる。

人が動かなくても勝手に掃除する掃除機。人が操作しなくていい自動車。家に居ながら物資を手に入れるぱそこんとやら。


「便利で安全なモノ」が好ましいこの世界。



だから、俺様は「便利なモノ」になった。

家事が苦手と言う彼女の代わりに掃除洗濯をし食事を用意する。彼女の好みを把握して献立を作り、通貨の単位を習い買い物をする。
不要とあらばすぐに用無しと捨てられるのはどこの世界もおんなじだ。「道具」として育てられそうして生きてきた。ここでもおんなじように「道具」になればいい。

なのにこの女はずいぶんとお人好なのか、1日1食で構わないと言ったのに『せっかくのご飯を一人で食べるなんて美味しさ半減!』と食事に同伴させようとする。だから今は彼女に付き合い1日2食。しかも彼女と同じものを食さなくてはならない。忍びにあるまじき贅沢。

寝る場所は天井裏でいいのに、この家に天井裏はないと言われる。部屋が余ってんだからそこ使えばいいと言われ、風呂も同様。

対等でいいじゃない。ギブアンドテイク。佐助は衣食住を確保してその分労働で返してくれてる。私は美味しいご飯に家を綺麗にしてくれて掃除洗濯してくれる人を手に入れた。
そもそも佐助が「なんでもするからここに置いて」って言ったんでしょ。

ヘラリ笑う彼女に違うんだと苛立ちが募る。この世界にどうしようもない怒りが沸く。

対等?そんなわけないだろう?現に今の俺は確実に「与えられすぎ」だ。家事の労働なんてたかがしれてる。対等にするなら俺が支払うべき対価がある、なのに支払う術がないこの平和な世界に腹が立つ。

諜報も流言も暗殺も工作もする必要がない世界で忍びは「不要な存在」であることを突きつけてくる。今まで死に物狂いで会得した技は何一つ役に立ちはしない。

このお人好しな女とていつかは気付くだろうさ。あきらかに不平等だって。その時に、俺様がまだ利用できるモノだと、まだ必要だと、まだ価値があると、思わせておくために、どうすればいいか、なんてとっくに知っている。


「名前ちゃーん、ちょっとちょっと携帯忘れてるよー。」

『わわ!とってとって!』

「はい、慌てんぼさん。」

『も、もう!子供じゃないんだから!』


頭を撫でて


「ほらほら、重たいものは男に任せときなさいって。」

『これぐらい大丈夫だよ!』

「女の子は男に守られときなさいよ。」


優しくして


「そんなカッコじゃ風邪引くよ?ほらほら、これかけといて、」

『…佐助ってお母さんだね。』

「なーにか言った?」

『イエ、ナニモ。』

「俺様としちゃあ、もうすこし格上げしてもらいたいもんだね。」

『へ?』

「なーんて。」


頬を染める彼女。







俺様の価値を見いだせる世界に戻るために忘れてはいけない。

自分は道具だ。痛む心など持ってない。


ああ、だけど反吐がでそうだよ。
この世界に、俺をここに飛ばした存在に、自分自身に。



心なんてないのに、張り裂けそうに苦しんでいるのは、どこの器官か教えてよ。







名もない感情を持て余す








お題たとえば僕が

初出2014.12.13 吾妻

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