BASARA/戦国/元親≦元就

元親より元就がメインになってます。
元就のキャラが迷走
元就のツンはない
以上を踏まえ何でもOKな方のみどうぞ



『ったく信じらんないっ!あんな奴はずっと海でお魚と友達やってればいいんだわ!』


腹立ちまぎれ、目の前のお餅を頬張りながら従兄弟に愚痴を言えば呆れながらため息。


『そりゃあ海に出たらひと月ぐらい帰らないこともあるからわからないでもないけど、だからって久しぶりに会った奥方に対してあの言いようはあんまりじゃないかと思う!』


グイと飲み干した湯呑みを受け皿にダン!と置いて『おかわり!』と言えば襖の向こうに控えていた女中が恐々とその湯呑みを下げた、が。


「よい。このような粗雑な飲み方をされては折角の玉露が泣く、というよりもったいない。そのまま下げよ。」

『なによ!元就のケチ!』

「ケチ、とは随分な言い様よ。突然転がり込んきた不埒者の衣食住の面倒をみてやっているのはどこの誰ぞ。」

『私の従兄弟で安芸を治める毛利家の元就様です!』


すみませんでした。と頭を下げるも謝意が全く伝わらないのは本気で悪いと思ってはいないのだろう。全くこの従姉妹の図太さは昔から変わらない。まあこの図太い神経だからこそ元就の刃のような嫌みも絶対零度の眼差しもなんのその。物怖じせず言いたいことはバシバシと口にするのだから。

この城主を怖れない従姉妹を元就はそれなりに気に入っていた。幼い頃より結構悲惨な境遇にあった元就は他人を信頼することが難しい。その元就を持ってして「疑うだけ無駄よ」と言わしめたのが従姉妹の名前姫。
歯に衣着せぬ物言い、突飛な行動、凡そ「姫」に当てはまらない思考を持つ従姉妹。元就の明晰な頭脳でも予想出来ない彼女の性格に振り回されもするが、自分の真逆にいる従姉妹は元就に「駒ではない一個の感情ある人間」の存在を思い知らせた。

強いて言えば数少ない、心開けた身内。
その従姉妹も年頃となりそろそろ嫁入りを…と考えたが、如何せんあの性格にあの物言い。相手が不憫よ、いや、しかし元就の養妹とすれば嫁ぎ先もとやかく言うまい。

態度には出さぬが大切な従姉妹。それなりの家柄を探していたところ当の従姉妹が元就にのたまった。
『私、四国に行きたい』
と。

当然反対したのは言うまでもない。あのような粗野で粗暴で雑然とした場所にやれるかと。何より四国は元就がいずれ当主である長曾我部を飲み込み手中にする国。姻戚関係を結ぶ必要はない。

元就の渋い顔を見た従姉妹はそれである程度さっしたのだろう。図太いだけに勘がいいのは困りものだ。


『元就の挙げた相手ってみんな毛利家より家格下じゃないの。いいじゃない、元親と組んで天下統一すれば。』

「我が望むのは安芸の安寧よ!天下はいらぬが阿呆がしゃしゃり出るのは気に食わぬ!そのようなことよりあの阿呆を元親だとっ?貴様らいつの間にそんな仲になった!」

『こないだ停戦協定でこっちに来たじゃない。それからかな?』

「我は許可しておらぬ!」

『え?勝手に湧いてきたものに許可とかいらないでしょ。命短し人よ恋せよって、誰か言ってなかった?』

「知らぬわ!」


確かに駒として使うつもりはなかったが相手が長曾我部なのが気にいらない。もっとマシな相手がいる、見繕う。そう怒鳴った夜、元就の予想の斜め上を行った従姉妹は出奔した。もちろん出奔先は四国の長曾我部。元就が両手と両膝を地につけて脱力したのは言うまでもない。

そんな経緯があった従姉妹夫婦だが夫婦仲は「喧嘩するほど仲が良い」を体現している様で。
しょっちゅう夫婦でやって来ては仲良さを振り撒いては城中を巻き込み夫婦喧嘩、そして唐突に仲直り、を何度も繰り返し嵐のように去っていく。感情を態度や言葉で表す元親と思ったことをズバズバ言う名前。一つところでじっとしてられない夫に行動派な妻は遠慮なくくっついて。
四国の城下は言うに及ばず船にまで乗っていく当主の奥方は民衆からずいぶん慕われて「あの毛利家の姫とは思えない気さくな奥方」と評判がいい。これでは四国を攻める云々より、ゆくゆくは毛利の傘下に取り込む方が良い。と諦めた元就。

それに、あの従姉妹が幸せに暮らせるならば、とも。


そんな奥方が相変わらずの突飛さで、突然元就の城に帰って目の前で夫の愚痴を吐きながら餅を食っている。
理由は知れた。
犬も食わぬものは人にも食えないのだ。


「…かように食べてばかりでは、あの阿呆にそう言われても仕方なかろう。まだ5ヶ月なのに何やらもう腹が出て、」

『うるさい元就!』


湯のみが元就の顔を狙い飛んできたが難なく躱す、と背後で悲惨な音。割れた湯のみと破れただろ掛け軸代は阿呆に請求せねば。迷惑料も込みで。


『仕方ないでしょ!二人入ってんだから大きくもなるわよ!』

「双つ子か?」

『…』


コクリと頷く名前。流石に跳んだ思考は持ってるが武家の人間として双子が如何に危ういかぐらいわかっている。双子が女二人、若しくは男一人、女一人ならいい。男の双子ならば後継争いが起こるは必須。故に男の双子の場合、一人は良くて本家から遠く離れた養子、悪くて産まれてすぐ闇に葬られる。


『元親は優しいから、きっとそんなことできない。でもそれで元親の守ってきた四国の争いの種になって将来、戦が起こるかもだなんて本末転倒だよ、』


元親が海に出てすぐ身ごもったことを知った名前。一緒に行こうとしたが何やら体調が悪いからと今回は断念したけど、かえって良かった。

きっと喜んでくれるはず。元親が戻るのを心待ちにしていた約1ヶ月。その間に城の侍医から診察を受けたところ、心蔵の音が2つ分。命を宿した喜びはたちまち砕け、地の底に叩き落とされた気分。

どうしようか、なんと言えば良いのか分からぬまま不安ばかりを抱えて。なのにようやく待ち焦がれた夫が放った言動に名前はブチ切れた。


「なんだなんだぁ、俺が居ねぇ間にずいぶん丸くなっちまったな!まるで膨らんだ河豚のようじゃねえか!」

これを他の船子、いわゆる野郎共の前で大声で言った挙げ句、ガハハと笑いやがったのだ、私の苦悩も知らずあの姫若子め!すかさず転がってたでっかいサザエを投げつければ見事頭に当たった。

「なにしやがるっ!」

『るっさいわ!このすっとこどっこい!姫若子の分際でいっちょ前に海の男振るんじゃないわ!』

「ああっ!?命掛けの航海から帰ってきた旦那に言うことかよ!」

『そっちこそ!留守を守った女房に言う言葉かっ!』

今度は頭突きを顎に喰らわせ、四国を後にした。




「それで飛び出してきたのか。」

あの阿呆めがと言わんばかりのため息を庭先の気配へ吐く。

『だって私が悩んでた間、あいつ紀州経由して小田原の北条さんとこで遊んでたらしいもん!』


なにが命掛けだよバカやろう。
こっちだって命掛けなんだよ。

言葉は悪いがもう声に先ほどまでの覇気はなかった。こんな消沈した従姉妹を見るのはいつぶりだろう。
大切な、自分が唯一幸せを願った従姉妹。
元就の身の内に入れてしまえば簡単だ。だがそれでは駄目なのだ。


「くだらぬ」

『…え?』

「かようにくだらぬ事に我を巻き込むでないわ。」

『う、』

「それを我に話してどうしてほしいというのだ。我はあの阿呆ではない。まぁ、あの阿呆は先行きなど考えず、そなたや赤子可愛さに産めと言い、近い未来に遍く国を混乱に陥れよう。阿呆だけに。」

「さっきから聞いてりゃあ阿呆阿呆言い過ぎじゃねぇかよ毛利ィ!」


庭向きの障子が蹴破られ土足で乗り込むは西海の鬼と異名をとる名前の夫。こやつらは我の城を何だと思っておるのだ、先ほどの掛け軸と湯呑み分合わせて請求させてもらわねば。
などと思考しながら元就を見下ろす長曾我部に怜悧な眼差しを向けた。


「ならば言い換えてやろう。畳に土足で上がる痴れ者めが。」

「あのなぁ俺には長曾我部っつー立派な姓があんだよ!」

「ふん。長曾我部とは女房を豚呼ばわりする抜け作の代名詞であろう。」

『ちょっと元就、豚じゃない!河豚だからね!』

「…海か陸の違いであろうが。」

『違う!ぜんっぜん違う!まだ河豚の方が可愛い!』


喚く名前にため息しか出ない。河豚呼ばわりされて出奔したくせに、他人から言われると夫を庇う。味方についたつもりが形勢が2対1とはこれなんぞ。全くもって男女の仲とは奇天烈である。そしてとてつもなく面倒くさい。我は同じ轍は踏まぬと心に誓う元就であった。


「先ほどからコソコソと聞き耳を立てていたならば、理由は分かったのだろうな阿呆」

「だから長曾我部…いや、この件に関しちゃあ確かにあんたの言う通り俺ぁ大馬鹿モンだ。その…悪かった名前。」

『ううん、私こそ、ごめんなさい…。』

「赤子は産んでくれ、四国の火種なんざにしやしねー。ヤローの双つ子?上等じゃねぇか!こいつら二人の手に余るほど国を広げてやりゃあいいんだからな!」


何を世迷い言をほざいて言っておるのだ阿呆めが。お主は天下でもとるつもりか身の程をしれ。
聞いていれば元就の存在を忘れたかのように二人で仲睦まじく語り合う。

いい加減にしろと氷の眼差しを向けるも砂糖菓子のような雰囲気を醸し出す二人はまるで気づかない。苛立ちが増したが従姉妹の不安が払拭された明るい笑顔に、元就は諦めの息を零した。


そう、元就の願い
大切な従姉妹の幸せ。
不安にさせるのも安心させるのもあの四国の鬼。ならば、元就は四国を蹂躙など出来ようはずもないのだ。

そっと部屋を出た元就は呟く。

「まったく、人騒がせな従姉妹よ」

しかし、その唇が珍しく笑みを描いていたのを誰も知らない。



自分以外は大団円

あ、元就!男の子二人なら一人養子にもらって!

おう!そうしたら将来安芸は長曾我部のモンよ!

寝言は寝て言うが良い!お騒がせ夫婦めが!



お題〈空を飛ぶ5つの方法〉様
初出2015.10.14 吾妻

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私の中の元就さん像は
基本いい奴なんです

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