BASARA/戦国/左近+α

豊臣軍の左腕、石田三成。それに近しい者、島左近。気っ風が良くて明るくて余所者の話しを聞かない豊臣軍にあって他軍から、豊臣にも人の話しが聞ける人物がいるんだと言わしめる。

好きなのは賭け事、嫌いなのは幽霊とイカサマ。手にした賽で全ての物事を決めてしまう真の博打者。そんなんで人生決めて大丈夫なのか?と心配する者をよそに左近は風の吹くまま気の向くまま賽の向くまま、今日も今日とて元気に生きている。

性格も見目もいいが博打打ちな所為でイマイチ女性には二の足を踏ませる左近にも想い合う人がいたりする。
同じく三成の麾下で、一個部隊を預かる女武将、名前がその人である。
軍色の黒を基調とした鎧を纏い悍馬を操り敵を伏していく姿は見事に尽きる。凛々しい姿は物語に登場する美々しい若衆姿のよう。それも鎧兜を脱げば花の顔(かんばせ)刀を振るうため筋肉質ではあるが、そこはやはり女人で多少気が強いが左近にとってはどこもかしこも柔くて甘く可愛い生き物に映るのだ。

さて、ところ代わってそのお相手の名前であるが、ここ最近は小競り合いはあるが大きな戦はないので割と穏やか日常を過ごしているのだが、



『さぁこぉおんんんんん!!今すぐそこになおれぇえええ!!』

「無理無理無理無理!そんなおっかない顔で追っかけられたら止まんないって!」


ドタドタと足音荒く駆け回っているのは件の島左近と名前。追いかけているのは名前で終われるは左近。しかも驚くことに名前の手には彼女愛用の刀。物騒極まりないこの騒動だが城中の誰しも慌てたり焦ったりしない。むしろ生温かい視線を向けて心中「ああ、またか。」そう呟き、日常の動作に戻るだけである。


『このッ、潔くッ、首をッ、晒せッ!』


刀をブンブン振り回しては左近に斬りかかる名前。左近はすまなさそうに眉を寄せながらひょいひょいと紙一重で躱すが今の名前にはそれが癪に障る。



「昨夜はほんのちっとばっかし運が悪かったんだって!」

『こんのッ!二度と賭場に行けないよう斬首してくれる!』

「ちょ!三成様じゃないんだから!もうちょい穏便に!」


ザスン!そう斬りつけた先は左近が今そこにいた場所。「おっかねー!」叫んだ声とともに無惨に斬られた襖が斜めに割れて見えた、その室内には二人の上司である石田三成と親友である大谷刑部。
そこに天の助けとばかりに左近が飛び込めば名前が卑怯者!と叫んだ。


「みッ三成様!助けてください!俺、マジで斬られそうッス!」

「黙れ左近!そして出て行け!いつもいつも私と刑部を巻き込むな!」


「やれ、三成よ。いつもの夫婦喧嘩故に放っておくがよかろ。」

「これが夫婦だと?ならば私は夫婦というものに何も希望を見いだせない。」

『なにげにひどいですね三成様!』

「三成様!俺と名前はこう見えて仲良い…はず?」

「黙れ左近!そもそも貴様の悪癖が原因だろう!」

「うッ!」

「それより、ほれほれ名前よ菓子をやろう。珍しき南蛮の菓子ぞ。こっちへ来やれ。」

『ありがとうございます!大谷様!』


刀を戻していそいそと大谷からお菓子をいただく名前は本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。三成も左近には厳しいが彼女には心なしか甘い気がする。
現に今、三成は自分の分の菓子を「私は甘い物は好まない。」とか言いながら名前にあげていて、しかも左近に茶を淹れて来いと命じてきた。何で俺なんスか?


「えー!三成様、俺も菓子が食べ…、

「ところで名前よ、今回左近はいかがした?また賭場で身包み剥がれたか?」

「…お茶淹れてこよっかな、ぐふッ!?」

『逃がすか左近!そーなんです大谷様!今月に入って三回目!』


しまった、さっさとお茶を淹れる名目の下逃げておけば良かったと思うも時既に遅し。後ろの襟を掴まれて逃走は出来なくなった、と言うか三成様の眉間の皺と凍てつく眼光から放たれる威圧感に身動き出来なくなった。三成様マジ怖いッス。


「…いや、でも勝ってる時だってあるんスよ!だから、まぁとんとん?」

『身包み剥がれて褌姿で帰ってきた男が何を言う!』

「いや、だからそれは負けた時だし…」

「左近、貴様…そんな卑しい姿でこの城に入ったのではあるまいな!?」

「げぇ!三成様!鯉口に手ぇかけないでくださいって!」

『三成様、しっかり叱ってやってください。私のお小言など耳に届かないようですので。』


なんて事を暴露してくれんだあの女!危機を招いておきながら一人お菓子を幸せそうに頬張る彼女がこの時ばかりは小憎らしい。なのでついつい口を吐いた言葉。



「可愛くないよな、名前。」


別に悪気があった訳じゃない。本当に可愛くない、なんて思ってない。お菓子を美味しそうに食べる姿は見てるこっちも幸せになるし、左近にしか見せない女らしい仕草や表情には優越感を満たしてくれる。

ただ、それが三成様や大谷様ばっかりに向けられて、少し自分も構ってもらいたかっただけで。

それにこのくらいの軽口、彼女はさらっと流して『悪かったわね!』なんて返してくると左近は思っていたのに。



「え、あれッ…ちょ、ちょっと名前…?」


目の前の彼女はお菓子を手にしたままボロボロと大粒の涙を流していて、それに驚いた男3人はただ固まるしかなかった。だって戦では鬼のように刀を振るい男顔負けに戦場を駆け回る名前が、と。


「や…わ、悪かった!名前は、可愛いよ!うん!」

『わ、私…左近に、ちゃんとしてほしいから、』

「…今に始まったことではないぞ名前。」

「おッ大谷様!ちょっと!」

『女の…私からお金借りるとか、有り得ないし、』

「左近…貴様の給金は今後名前に渡るよう手配する。」

「三成様!?それは待ってください!」


いたたまれ無さ過ぎる!ここに己の味方などどこにもいない。とりあえずこの場から彼女を連れ出し二人きりの室で機嫌を直してもらう為ありとあらゆる手を尽くそう。左近は決意でもって彼女の手を掴んだ。


『だって、やや が生まれてくるのに…父御が賭場通いとか、先行き不安で…』

「へ?」

「なッ!?」

「ヒッ、」


彼女から出た言葉を今一度頭の中で繰り返した左近。ややが 生まれて ?
やや やや…


「赤子?」

『うん、』

「俺の子、だよな?」

「秀吉様ぁああ!この愚者を斬滅する許可を!」

「落ち着きやれ、三成よ。我が許可するゆえ存分に斬り刻め。」

「うわぁああ!すんません失言でした!」

『左近酷い!』



怒りながらも涙を溜めた瞳が不安げに揺れている。左近がゴクリと空唾を飲み掴んでいた彼女の手を離すと、たちまち表情が悲しみに染まった。

ダメ、なんだ。

名前が絶望に暮れかけたその時、



「や…やったー!ね、ね、三成様、大谷様聞きましたッ!?俺、俺…父親になるんだって!すんげッスよね!」

『ちょ、ちょっと左近!?』


ひょいと名前を抱え上げた左近は、子供のように廊下ではしゃぎ出す。
そのままくるくると回ったり、時には彼女の体に照れくさそうに顔を擦り付かせたり。体中から「嬉」の雰囲気をひたすら振り撒いている左近を見て名前は今まで不安に苛まれていた心が溶けていくのを感じた。そうして湧き上がってきたのは心底からの安堵感とこのお腹の命を手放しで喜んでくれる左近への想い。

この人で良かった、
素直にそう思える


「これ島よ、名前は今が一番安静にせねばならぬ時期。そのように振り回しては危ないであろ。」

「わわッ!そ、そっか、そうッスよね!悪い名前!」

『ううん、大丈夫。』



そおっと繊細なものを扱うようにして名前を廊下に下ろした左近は落ち着かない様子で後ろ髪を掻いた後、咳払いして顔を引き締めると名前を真っ直ぐ見つめた。


「えーと、俺の嫁さんになって、ややを産んでほしいんだけど、」

『私の分もキリキリ働いてよ?』

「当然しょ!任せとけって!」


『賭場通い止めて、』

「や、で、でもちょっとぐら…」

『や め て』

「………うぃッス。」

『じゃあ、よろしくお願いします。』






そうして二人は、はにかむように微笑み合いそっと手を繋ぎ、将来を誓い合うのだった。





とびきり甘いのをお願い

これからいくらでも
たくさん、たくさん
君にあげるよ






「三成様!最近仕事量が半端ないんですけど、これ気のせいじゃないッスよね!?なんすかこの膨大な書状の山!」

「黙れ左近!!貴様名前の分もキリキリ働くと言っただろう!まさか…私と名前を裏切るのかッ!どうなんだ左近!」

「たまには早く帰らせてくださいよ!だって新婚なんスから…すんませんすんません!」

「許さない…私は貴様を許さない!さこぉおおおんんん!」

「ぎゃああああ!」

「ヒーヒッヒッ!」




妹のように可愛がっていた名前を取られて三成が小姑のようだ。左近には悪いが刑部はそれを止める気はさらさらない。だって彼だって彼女を可愛がっていたのだから。


「ヒッヒッ、しばらくは遊ばせてもらうとしよう。楽しみよなぁ。」





お題 《確かに恋だった》
初出 2014.10.23 吾妻

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豊臣軍のこの3人好きです。

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