BASARA/戦国/佐助

長い長い任務を終えて家に帰れば嫁さんが赤ん坊を抱っこして俺を出迎えた。

『お帰り佐助さん、赤ちゃん出来ました!』

...トン

黙って戸を閉め3歩下がって周囲を巡らす。うん、いい感じのあばら家っていうか、ね、まぁ、前と代わりない、俺様と嫁さんのおうちだ。
そうそう、ちゃーんと「お帰り」って言ってくれてたし、うん。よし。

「ただいまー、」

『どーしたの佐助さん?お帰り、それより見てこの子!』


...トン

右の、手の平で視界を覆い左手で壁に手を付く。俺様疲れてんのかなぁ?確かに長い長い任務だった。国の情勢、国力、民度、諸々、隅から隅まで調べ上げる為にその地に住み着いて3つの季節を跨いだ。相手国の土地柄から城主の足の寸法に好みの女まで、もうこれ以上ないだろってほど調べ尽くして帰ってきてさ、大将からお褒めの言葉を賜り、あの真田の旦那さえ暫く休めって言ってくれた。そうだ、俺様きっと疲れてんだよ。だって可愛い嫁さんの腕にややが抱っこされてる幻が見えたとか...。よし、これはちゃんと癒してもらわなきゃあ。まずはぎゅーって抱きついて名前ちゃんの甘ーい匂いで胸いっぱいにして、それから美味しいご飯を食って(食わせて貰うのもあり)それから柔らかい太ももで膝枕してもらおう。それからその後は、ねぇ?夫婦ですからやることやっちゃう!だって長ーい禁欲生活だよ?俺様よく耐えた!
戸に手をかけて横に滑らせる。そこには怪訝そうな顔した俺様のお嫁さんがやっぱりややを抱えてた。


『んもー佐助さんってば何やってんの?』

「...名前ちゃん、拾った場所に戻して来なさい」

『本気で言ってるなら戻るのは佐助さんのピー(○×△□)だからね。』


ドス黒い炎を纏わせた彼女に背筋が凍りついた


****

ご飯の準備するからこの子と待ってて、そう言って赤子を押し付けられた俺様は所在なく部屋(と言っても一間と土間しかないが)で赤子を観察。嫁さん曰く、俺様が任務に出てしばらくした後、身籠った事に気づいたそうだ。
ふくふくとした小さな手と足をパタパタと揺らしたり体を反らしたり。
丸っこい目と鼻は名前ちゃんに似たのかな、髪はちょっと色素が薄いなぁ俺に似ちゃったか。つやつやした頬を指先でつつけばフニフニと柔らかく、赤子は何が嬉しいのか笑ったりして。
その顔は名前ちゃんそっくりだ。

「うは...かーわい。」

何かを探してるかのような手の平に指を持っていけば小さな指が絡んでギュッと捕まれる。意外な力強さに「おっ」と声を上げたら様子を見てたらしい名前ちゃんからクスクスと笑い声。

「ね、抱っこして大丈夫?」

『大丈夫よ、ずいぶんしっかりして来たから。』

でも首は支えてあげてね、と言われたので気をつけてすくい上げるように抱き上げた。うわ、見かけに寄らずずっしり重い。

『重い?』

「うん、重いや。」

こんなに小さいのに。
何だか胸の辺りがきゅうと締まって鼻の奥がツンとする。

「ごめん、大変...だったろ?知らせてくれれば飛んで帰ってきたのに。」

『何言ってるの、大事なお仕事中だったでしょ。』

いやいや、忍びの術のあれこれ駆使して帰るよ。


『お館様と幸村様がね、佐助さんを驚かせようって、だから内緒にしてたの。』

「...我が主達ながら人が悪い。」

『だからでしょうね、たくさん、たくさん手伝ってもらえたのよ。』

あんまり悪阻はなかったけどお館様が滋養のあるものをって届けさせてくれたの、幸村様がならば某もってお団子いっぱい持ってきたらお館様に飛ばされてたわ。忍隊の人達がいつも見守ってくれてて、この子を産んでる最中なんて戸の向こうでお湯だ盥だ新の布だとバタバタしてて、お産婆さんから怒られてたの。

「バタバタって、忍びにあるまじきだねぇ。」

『叱らないであげてね。すっごく心強かったんたから!』

そう言った彼女の声が少し震えていたのを聞き逃す耳ではない。本当は不安だったはずだ。寂しかったはず。忍びの長が長期の任務に出る、重要な任務だと理解すればこそ、言えなかったんだろう。ああ、ほんと、いじらしくて愛おしい。土間の後ろ姿にそっと近づき赤子を抱えたとは逆の腕で囲んだらすん、と鼻を鳴らす名前ちゃん。

「旦那がね、珍しく休暇をくれたんだ。」

『うん、』

「俺様なーんでもやっちゃうから、襁褓も子守りも。だからゆっくりして、ね?」

『そ、それじゃぁ佐助さんのお休みにならないじゃない。』

「そこは、ねぇ。夜に甘やかしてもらおっかなぁって。」

蟀谷に軽く接吻したらほんのり赤く染まる頬。あーもーほんと、可愛いんだから。今夜は寝かせてやれないかも!

「俺の子供、産んでくれてありがとう。大事にするよ、この子も、あんたも。」

『...うん、うん、』

ポロポロ零れる綺麗な涙。忍びの猿飛佐助の命は真田の、武田のものだけど、1人の男としてこの心はずっと名前ちゃんのだから。

『ありがと、佐助さん・・・。』

俺様の大好きな笑顔で笑ってくれた。



事後報告より報・連・相が大事です


ねぇ名前ちゃん!この子なんで泣き止まないのっ!?

おかしいわね、いつも幸村様とかお館様が抱っこするとすぐ機嫌良くなるのに。

佐助が下手なのではないか?どれ、儂が抱いてやろう。

ちょっと大将、傷つきますよそれ!てか、渡しませんからね!今までの分取り返すんだから!

ならば某が高い高いをしてやろう!今度はあの松の木のてっぺんを目掛けてみようと思うのだ!

やめて!うちの子をなんだと思ってるの!

ワッハッハ!逞しゅう育つのう!先が楽しみじゃ!

女の子なんだからそんな逞しさいらないっての!
名前ちゃん、次、ややが出来たらどんな事あっても俺様にまず報告して、ねっ!絶対だよっ!

う、うん、わかりました(佐助さん、鬼気迫ってる)


初出2018.7.20吾妻

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