* * *
久し振りに出来た休日休み。フィオは土日がいつも休日だが、医者であるおれには決まった休みなんてない。
けれど気を聞かせた同僚が1日くらい休んで嫁さんにサービスしてこいと、お節介なことをしてくれた。
確かに籍を入れてからも満足に出掛けたりしていなかった気がする。
「…フィオ」
「んー?何、お腹すいたの?」
「違ェよ」
コンピューター関係の仕事に就いているフィオは、ビジネスウーマンでたまに家にも仕事を持ち込んでいる。
…まぁ、夜中に呼び出しくらって出ていったきり何日も帰らない俺よりはマシか。
そして今、フィオはパソコンの画面から目を離さずに何か打ち込んでいる。後ろから近付いて抱き着きながら画面を見る。
「…ちょっと前からブログ始めたの」
「ムカつく旦那の愚痴でも書いて憂さ晴らしでもしてんのか?」
「あはは、良いわね。憂さ晴らしになるなら。…まだ寝ててもいいのよ?」
打ち込む手を止めて、顔だけ振り向いたフィオにニヤリと笑いながら唇を重ねる。
元々、お互い忙しいのを理解した上で一緒になった。式すら挙げられず、新行にも行っていない。
だが、そんなことがしたいが為にフィオと結婚したわけじゃない。
「おれは睡眠2時間で充分だ」
「だから隈が取れないのよ」
「フィオこそ画面の見すぎだろ。フフ、血走ってるぜ」
フィオの座っていた回転イスを反転させ、足を乗り上げる。フィオが長時間座る椅子のため、頑丈なそれは大人2人が乗ろうとビクともしない。
フィオの目元に唇を押し当てながら、顎を掴んで持ち上げるとぷっくりとした唇をじっと見つめる。
「ロー、何考えてるの?」
「…お前が浮気しないか、とか」
「ふふ、して欲しいの?」
「お前何も欲しがらねェし。…なァ、フィオ。今幸せか?」
浮気なんてしないとは解っている。フィオが始めたというブログが何よりの理由だ。
『新妻ブログ』
そんな謳い文句がデカデカと出ているトップ画面に、フィオらしくないと思いながらも、それはコイツなりに今を楽しんでいる事を指している。
…愛しい。
夫らしいことなんて、何一つしてやれていないというのに、どうすればもっと良くしてやれるのだろう。
* * *
ローが何を考えているか、何となく理解しているつもりでいる。
眉間にシワを寄せて黙り込んだままのローの首に腕を絡めて擦り寄れば、ローが耳元で深く溜息をついた。
「すっごく、幸せ。…ローは?」
「…お前がもっと欲深かったらいいとは思うが、幸せだ」
「素直でよろしい!」
じゃれるように頬やこめかみ、おでこにキスを落とされ、くすぐったくてケラケラと笑う。
幸せよ、ロー。
そりゃあ、仕事が忙し過ぎて家を空けることの方が多いし、たまには家でこうしていたいけど。
私もまだ仕事してたいし。
何より、ローと一緒に暮らしているこの家には、私とローの私物で溢れている。ローが居ない間、私は家具たちといて主人の帰りを待っている。
…そうしたら、私もローの生活の一部なんじゃないかと思えた。
生きて行くために必要なものだと、選んでくれたことが何よりも嬉しい。
「…好きだ、フィオ」
「はい、旦那様」
「ご機嫌だな、新妻さん」
なんてふざけあって、どちらともなく唇を重ねると、私の身体を撫で回すローの手。その手に自分の手を重ねるて、頬にちゅ、と音を立ててキスをする。
…今はダメ。
そう伝えたつもりだけど、至近距離でローが意地悪くニヤリと微笑んだ。
なんか、ちょっと嫌な予感。
「あ、そろそろ買い物に行かないと…!うわっ!」
「フィオ…、つれないこと言うなよ」
肩を押したものの、身体を抱き抱えられ、下ろされたのはリビングのソファーの上だった。
覆いかぶさるようにして私にのしかかるローが、髪を撫でる。
「…ロー、今変なこと考えてるでしょ」
「フフ。なァ、フィオ。『新妻ブログ』じゃなくて『ママさんブログ』にしてやろうか…?」
「……バカ」
やっぱりローが傍に居てくれる方が嬉しい。けど、そんなのただの我が儘になってしまうから。
依存はしなくても、支え合いたい。
まだ実感はないし、何をしてあげられたわけじゃないけど、夫婦ってそういうものだと思うから。
ここにある幸福
「…夕飯は何か食いに行こうぜ」
「いいの?久しぶりにちゃんと作ろうと思ったのに」
「お前と2人でいるとムラムラする」
「…何言ってるの、この旦那様は!」
End
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