うるさい携帯のアラームを止めながら気だるい体を無理矢理起こす。いつも通りの平日の朝だ。カーテンを開けて窓越しに見上げた空は一面綺麗なブルー。どうやら今日は青が優勢のようである。
近頃わたしの寝室では戦争が起こっている。その名もメルヘン戦争。なんだそれはと笑われるかもしれないが、部屋の持ち主であるわたしにとっては大きな問題なのだ。
わたしがこの部屋に越してきてからずっと使っているひつじ模様のブランケットが率いるブルー軍。対してどこかの変態サングラスが連れてきた(無理矢理プレゼントしてきた)もこもこのテディベアが率いるピンク軍。当の領主はブルー軍の勝利を願っているというのに、ピンク軍の侵攻はいつの間にか着々と進んでいた。
テディベアから始まり、可憐に咲き誇るピンクローズ、彼が自ら選んだらしいふりふりの下着やどうしていいのかわからずに壁にかけたままのミニドレスまで、彼がわたしに贈ってきたあらゆるピンク色のプレゼントがブルーを攻撃してくる。それによってわたしの部屋はブルーとピンクがふわふわ取り巻く素敵なメルヘンワールドになっているというわけだ。
捨ててしまえなんて思わないわけでもないが、一応プレゼントされたものをそうしてしまうのはなんだか忍びない。だから仕方なく彼が入らないはずの寝室に並べている。しかし最近色々と不安になってきた。彼が寝室に入ったのはあの夜だけのはずだが、留守中のことはわからない。でもまだ調子にのっていない彼の様子を見る限り大丈夫だろうと踏んでいる。自分のあげたものがまだわたしの手元にあるなんて知ったら、もっと迷惑なことを始めるているはず。だから大丈夫、…たぶん。
それに加え、下手に突っ返すこともできずに部屋に蓄積されていくピンクが、それなりに高価なものであることも悩みである。のほほんと暢気な顔をしたテディベアも、タグをよく見たら“Handmade”と書いてあって驚いた。そんなものをわたしにプレゼントするなんて何を考えているのだろう。
ひとつわかっていることがある。彼、ドフラミンゴはかなりのお金持ちだということだ。
プレゼントの件にしろ、この間わたしをドライブに誘いに来たときちらりと目に入った車がイタリアの高級車だった件にしろ、それらは立派な証拠だろう。まあそれ以前にあんな派手な羽コートをなびかせている時点で、相当なお金持ちか相当な不審者かどちらかなのだが。(彼の場合きっと両方だ)
でももし彼が本当にお金持ちでその上わたしに好意を寄せているのだとしたら、それこそ理解不能である。
なんだ、庶民の心に付け入って手のひらで転がる様を見たいのか変態フラミンゴめ。おあいにくさま。そんな手には引っ掛からないんだから!
……なんて。
ここだけの話、ドフラミンゴに惹かれていないといったら嘘になる。
ルックスは人並み以上だし、スタイルもいいし、ストーカー行為以外はわりと紳士的だし、小さな気づかいには時々どきりとしてしまうし。それに、なんだろう。彼がそばにいると不思議と安心する気がするのだ。色々なものへの不安や恐怖なくなって、ただ彼とのやり取りだけがすべてになる。ただ単にドフラミンゴが最大の警戒対象であるからなのかもしれないが。
こうして自分の気持ちを並べると、なんだかドフラミンゴのことが好きな気がしてきてしまった。しかしよく考えて頂きたい。恋に落ちるには彼との出会いと関係が不審すぎるのだ。それはもうロマンチックもへったくれもないほどに。
バーでいわゆるナンパされて、道端でぶっ倒れられて、仕方なく家へ連れ帰って、気づいたらストーカー。そのストーカーのことが好きだなんて言ったら、きっと友達全員にやめろと言われるだろう。もしかしたらお母さんは泣くかもしれない。そしてわたし自身もそんな自分にはなりたくない。そうなってしまったらわたしの今までの二十数年間が可哀想だというかなんと言うか…。とにかく、これがわたしがもう一歩踏み出せない大きな理由なのかもしれない。
ふぅ…。
思いがけなく朝からずいぶんと深く考え込んでしまった。それでもいつの間にか朝食も着替えも化粧も済ませているのはやはり慣れのせいか。
ふと左腕につけた時計に目をやる。
まずい。遅刻しそうだ。
今日は朝から会議に出席して、そのあとは取引先に電話をしなきゃ。家に帰るのは何時になるのか。残業を押し付けられないといいけれど。
頭の中で予定を整理しながらドアを閉める。
「鍵は忘れず閉めろよ」
バタンという音と同時にふと浮かんできた彼の口癖にはっとして一瞬手が止まる。訳のわからない、わかりたくない微かな動悸を振り切るように素早く鍵を閉め、足早にエレベーターへと向かった。
メルヘン戦争
果たして戦場は寝室か
それともわたしの…、
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20130401
何となくドフラミンゴさんに惹かれつつも気付きたくないヒロインさん。
というか、
ドフラミンゴ夢なのにドフラミンゴさん出てこない上に名前変換もありませんね。ごめんなさい。
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