ひんやりとした感覚で目を覚ます。
どうやら昨日はフィオを抱いた後そのままの姿で眠ってしまったらしい。
何も纏っていない裸の胸に朝の古城の空気は冷たかった。

とりあえず何か着ようとベッドを抜け出す。
下着とズボンはベッドのすぐ下に落ちていたが、あるはずのシャツが見つからない。

またか。

近頃よくあるのだ。
犯人なんてわかりきっている。

小さくため息をついて、晒した胸をそのままに寝室を出る。



居間のドアを開けると案の定犯人は盗難品を着てソファの上にいた。
盗難品はもちろん俺に合わせたサイズのため、小さなフィオが着ると丈の短いワンピースのようになってしまう。
その上膝を抱えて本を読んでいるものだから、白い脚がなまめかしくさらけ出されていた。

全く、起きぬけから酷いことをするものだ。

しばらく見つめていると、やっと気づいたようでこちらに向かって微笑んだ。


「おはよう、ミホーク。ずいぶん寒そうね」

「誰のせいだと思っている」


むっとしながらフィオの隣に腰を下ろすとふふふ、と楽しそうに笑う。


「だって落ちていたんだもの」

「それはもう一度着るからであろう」

「シワになっていても?」

「そんなもの気にはせん。それよりもなぜ主は自分の服を着ないのだ」

「だってこのシャツ、着心地がよくて」

「じゃあ同じものを買ってやるからそれを着ろ」


後ろから抱き寄せて耳元で呟くと、フィオの眉が僅かに寄った。


「あなた、それ本気で言ってるの?」


首を回して緩くこちらを睨む。
見つめ返して首を傾げると、ぷいと顔を逸らしてしまった。


「フィオ……?」

「ミホークって時々鈍いのね」


あちらを向いたまま言葉を続ける。


「自分のだったら着ないわ」

「………?」

「だから!……ミホークのだから着たくなるのよ!」


うっすらと赤みを帯びた耳が俺を誘う。


「おい、」

「…別にいいじゃない、朝一番にミホークの香りに包まれたいとか思っても……。それが許されるくらいわたしは毎日いい子にしてるでしょう?」


やはり、起きぬけから酷いことをするものだ。

「フィオ、」

「何よ…」

「可愛いことを言うのだな」


びくりとした肩をさらに強く抱く。


「しかし、朝一番に俺を感じたいなら別にシャツに縋らなくても良いではないか」


隣に本体がいるのだから、そう囁くと真っ赤な顔がこちらを向いた。


「ほんとにいいの?」

「あぁ」

「わたしミホークが眠たいって言っても無視するわよ?」

「あぁ」

「突然抱き着くかも…」

「大歓迎だ」

「……ほんとに?」


体ごとこちらを向いて俺を見上げたその顔がなんとも可愛らしい。


「主に嘘はつかぬ。だから…」


何も気にしていなさそうな目で俺を見据える。


「だから…そのシャツを早く着替えないか?いくら朝といえども、主のそのような格好を見ると……」


ごにょごにょ、と柄でもなく口ごもってしまう自分が情けないが、こんなことをフィオに言っていいものか。

悩んでいると、不意にフィオの細い腕が伸びてきて俺の頬を捕まえる。
そしてとんでもない一言を口にした。


「ねぇミホーク。これが計算だと言ったら、貴方は怒るかしら?」


















あぁ、神よ。
俺はどこで育て方を間違えた?


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2012.2.17






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