「……お前、何してんだよ」



日付が変わった瞬間におめでとうのキスをしてから数十分。
さぁ寝ますかというときに彼の名を呼んで、意を決してパジャマのボタンを外したら彼に言われた一言。

やっぱりやめておけばよかった。
前の島でたまたま立ち寄った下着屋さんのお姉さんに相談したのがそもそも間違いだったか。
彼の誕生日プレゼントをどうしようかと話したらお姉さんが迷わず差し出したベビーピンクの下着。
それは今まさにわたしのパジャマから覗いているそれで。

目の前で歪む彼の眉が痛い。



「何ってあの、……プレゼント、…です」


「…どういうことだ」


「その、プレゼントは…、わ、わたし……?」



恥ずかしさと不安と後悔と、色々なものが混ざって思わず上がってしまった語尾に焦る。
沈黙が怖くて目を伏せると隣の気配が急に近くなって、わたしの手を掴んだ。



「疑問形かよ」



その手はくくっと笑った口もとに運ばれ、ぺろりと指先が舌でくすぐられた。
よかった、怒ってはいないようだ。



「…突然どうしたんだ?」



にやりと笑った唇がわたしに尋ねる。

……本当のことを言うと、誕生日にかこつけただけで突然ではないのだけれど。

わたしたちが付き合い始めた半年前からローは島で女の人を買うことをやめた。
恋人がいれば当然のことなのかもしれないけど、わたしたちの関係は依然としてちょっと大人なキスだけでそれより先には進んでいない。
かといって船にいる以上は浮気なんてあり得ないし、島でこっそり…なんていうのもないと思うんだけど…。

そんな考えが止まらなくなってしまってここに至る。
直接聞いたわけではないからよくわからないけれど、男の人ってほら、…色々そっちの面では大変なんでしょう?
本当はローに無理させてるんじゃないかと不安なのだ。



「…突然じゃ、ないよ。……ずっと前から、ローにわたしの全部を捧げたいって、思ってたから…」



なんて、盛り上げるために言ってみたけど、実際どこまでが台詞でどこまでが本音なのかわからない。
経験がないから不安な気持ちもあるけど、それ以上にローの全てを知りたいと思ったし、わたしの全てを知ってほしいとも思った。
ただそれを言葉にしてはしたない女だと思われたくなかっただけのこと。



「…へぇ」



呟いたと思った次の瞬間にはわたしの背中はシーツに沈んでいて、ローの向こうには見慣れた天井。
どきどきと心臓の音が鬱陶しい。
もしかしたら彼にも聞こえているかも。



「ありがたく、受け取っていいんだな?」



普段より心なしか低い声が鼓膜を震わせる。
ローの腕と脚の檻に閉じ込められて、その上全身の緊張も手伝ってか身動きがとれないわたしは、ただこくりと頷いた。

それを見てますますにやりとした彼の長い指がするりとはだけた襟もとに忍び込み鎖骨を撫でる。
びくりとしているうちに今度は顔が近付いて、まるで戦っているときみたいな鋭い目付きをした瞳がわたしを捕まえて。
キスされる、と思った予感は裏切られて柔らかい感触は喉に降ってきた。
呼吸を止められる、そんな感覚。
狼に食べられる前の羊は、こんな気持ちなんだろうか。

どきどきを紛らわせるためのそんな考えもチクリという痛みに取り上げられた。
…もしかして、キスマーク?

そう思ったとたんに恥ずかしくなって、ぎゅっと目を瞑って耐えた。
でもそれはかえって他の感覚を鋭くするだけで。

密着した体の体温、重さ、首筋をくすぐる髪、だんだんと襟のなかへと進む唇、そしてパジャマの裾から入り込み、背中を撫でる手。
わたしを取り巻くローが強すぎて、背筋がぞくりとした。

まずい、どうしよう。
こんなはずじゃなかったのに。
気を抜いたら泣いてしまいそう。
正直、こんなに怖いと感じるとは思わなかった。
目の前でわたしを組み敷くのは紛れもなくわたしの恋人のトラファルガー・ローなのに、いつもより艶っぽい空気を作り出す彼はまるで別人みたい。

思わず声が出てしまいそうだけど、心は警笛を鳴らし続けている。

怖い、怖い、

どうしよう………



―――バチン


暗闇のなか、艶っぽいこの部屋の雰囲気に合わない音がした。

額がジンジンする。
おそるおそる瞼を上げて光をとらえると、眉間に皺を寄せて微妙な顔をするローがこちらを見つめている。



「…いつまで黙ってんだよ」


「……え」



ふっと体の拘束がなくなって、今までわたしに覆い被さっていた彼は隣にごろんと寝転んだ。



「差し出せないものはしまっとけ」



そう言って布団を被って向こうを向いてしまう。

やってしまった。
わたしから始めたことなのに。
今日はローのお誕生日なのに…。



「………ごめん」


「…何がだ」



ぶっきらぼうに返ってきたことばに涙が出そうになる。



「…ロー、わたしのせいで我慢してるんじゃないの……?」


「そんなもんしてねぇよ」


「……だって、男の人って、その……溜まったりするんじゃないの…?」



はぁ、と大きなため息が聞こえた。

ごそりと布団が動いて、不機嫌そうな顔がこちらを向く。



「俺をそこらの下等生物と一緒にするな」



頭の後ろに回った手がわたしをローの広い胸に埋め、ローの香りで心が一杯になる。
それに促されて堪えていた涙が姿を現して、次から次へとそれはローのパーカーのなかに消えていった。



「そんなことをするために俺はお前を選んだ訳じゃない」


「……」


「だから心配するな」


「……うん」



よしよしと頭を撫でる手がいつにもまして温かく感じられて、涙はますます止まらない。
いつのまにか頬に触れるパーカーは、わたしの涙でびっしょりだった。






わたしがようやく泣き止んだのはそれから三十分後のこと。
もう一時をとっくにすぎた真夜中だ。



「そろそろ寝るぞ」



大きく欠伸をしたローが布団をわたしの肩まで引き上げる。



「…ロー、……ありがとう」


「……ん」



眠そうな目をこちらに向けた彼が突然わたしの腰に腕を回してきた。
先程の感覚を思い出してびくりとする。



「…怖がるな」



緊張しながらもじっとしていると、その腕はそれ以上動くことなく腰に添えられたままだ。



「プレゼントがフィオなら、使い方は俺の自由だろ?なら…」



一緒にローの体がわたしにぴたりとくっつく。



「とりあえずまずは抱き枕になっとけ」



頭の上で聞こえた声はなんだか楽しそうで、つられて楽しくなったわたしは緩んだ頬をローの胸に埋めつつ、自分の腕を彼の背に回した。














プレゼントはわたし

所有期限は一生涯。


大人向けのご使用は

今しばらくお待ちください。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

2012.10.06

Happy Birthday,Law




ローさんおめでとうございます大好きです!

だがしかし、あぁ…。
なんだかよくわからないことに(..)
名前変換少なくて申し訳ありません。






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