04/13 Sat 11:56:58

わたしの三年間はなんだったのだろうか。

あれはそう、初めて彼のプレーを見た時から。
バッシュを鳴らして体育館を駆ける、あの野心的な瞳に撃ち落とされた、あの日から。


中学の時から気になっていた彼。
同じ学校に入学して、途中からだけどマネージャーとして彼を支えて。
憧れが恋へと変わるのはあっという間だった。

もちろん全国制覇を掲げる湘北を支えることが主だけれど、やっぱりそれまでよりも身近にいる彼を意識せずにはいられなくて試合の度にこっそりと彼を見つめていた。
我ながらなんて不純なマネージャー。

そんなことをしていたなんて少し卑怯だったかもしれないけれど、わたしが一番有利なはずだった。
わたしが一番近くにいたはずだった。
少なくとも、ギャラリーの柵の向こうから見つめるあのこたちよりはずっと。

でも結局それは物理的なことでしかなかったみたいで。


柵の向こう側の黄色い声が白線の上でパタリと落ちるように、わたしの想いもせいぜいベンチ止まり。

手渡すタオルの繊維の一本、毎日用意するポカリの一滴でさえわたしの想いをのせてはくれなくて、やっぱり彼のなかでわたしはいつまでたっても“マネージャー”。

彼にわたしの想いは、届かなかった。


わたしはいつでも彼を追っていたけれど、彼が追っていたのはあの皮のボール。
よく弾んで、よく飛んで、何度も何度も彼の手によってゴールに叩きつけられたあのバスケットボールだけだった。
それしか目に入っていなかった。

わたしはただ、永遠に振り向くことのない彼の背中を見つめていただけだった。



わたしの三年間はなんだったのだろうか。

追っても追っても指先でさえ触れなくて、見つめる目線すらも空気に溶けて、そんな三年間の日々は体育館に漂うただの塵だったのだろうか。

叶わなかった恋ほど空虚なものはない。

改めて考えてみるとわたしの毎日は彼のためにあったようなもので、他には何も残っていない気がする。
もしかしたら大人になってから色々と後悔するのかもしれない。
もっと勉強を頑張れば とか、もっと色々なことに挑戦すれば とか。

…でもそれは、彼のことを忘れたずっと先のことで。


わたし、諦められるのかな。

漠然とそんな想いが頭に浮かぶ。

彼なしの人生が考えられない なんていったら身の程知らずにも程があるけれど、なんだか今は想像もできない。

かといってこのままでもいられないのが現実。


来週末にバスケ部の打ち上げがある。
お兄ちゃんや三井さん木暮さん、宮城さんや彩子さん、わたしたちが一年だったときの湘北バスケ部が久しぶりに集まるのだ。
そこで来月にはアメリカに旅立つ彼を送る予定だから、もしかしたらそれがわたしが彼と会う最後かもしれない。

こんなにぐずぐずしているわたしだけれど、そのときには笑顔でいたいと思う。

彼が新たな地に旅立つのだ。
わたしも早く気持ちに見きりをつけるべきだろう。

早く、この想いからも卒業しなくては。






ぼんやりと離れた所にいる彼の方に目をやると、未だに女の子たちに囲まれて困惑していた。

…変わらないな。
三年間、何も。

それは親衛隊に囲まれて嫌そうな顔をしている彼も、そんな彼を見て「好き」だなんて心で勝手に呟いているわたしも。


思わず苦笑してしまったその時。

まるで吐息が風になったかのように桜の木の枝が揺れて、小さな花びらがひらりと舞い降りた。

そのうちの一枚がわたしの肩に着地する。
紺のブレザーに映える、可愛らしいハート型。

あぁ、まるでわたしの心みたいだ。

本来なら白に薄く紅が溶けたようなきれいな桜色も、ブレザーの紺を透かして薄暗い灰色になっている。

晴れない色。
わたしの心そのもの。

この花びらを散らした桜の木は、こんなにも晴れやかなのに。


わたしたちの卒業式を祝うかのように咲き誇った桜越しに空を仰ぐ。

はらはらと時おり舞い散る花びらが、誰かの涙のように悲しげだった。




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20130413


神奈川の卒業式シーズンに桜は咲かないですよね。
まぁそのあたりはご愛嬌。










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