君の隣の部屋の人
ヘイダーリン、人間一日一善イイコトしとくもんだね。一向に懐きゃあしねぇ裏庭の猫にホモソーセージを与え続けて早二年。これってぬこの恩返しかしらそうだろうそうだろう。
僕はつくづく普通って素晴らしいと思うワケ。だってほら、僕の寮室の隣にウ・ワ・サの転校生が住んでるっつのに僕はまだ一回も見てないんだよ。彼が来て三カ月もたつっつのに。鶴もビックリ脅威の猫の恩返し、もしくは僕のスルースキル。いや、この場合ステルス機能?
とにもかくにも僕ァこの三カ月、至って普通に学食で飯を食い至って普通に授業を受け、至って普通に放課後を過ごしているんだぜ。何このモブっぷり、逆に寂しいわ。
もっとアタイを見て!
そんな自己主張丸出しで半裸になっても良いんだが、流石に公衆の面前でストリップをやる程KYじゃないし。JKこれやったら風紀か生徒会に連行で俺オワタ\(^o^)/だろ。
そもそも誰が僕の半裸見たいよ? 誰得だよそれ。
そんなワケで、僕は今朝もやたらとウルセェ隣を華麗にスルーして学食で朝飯食ってんだけどさ。あれ、これむしろ隣だから避けられんのか。ならおk?
一人首を傾げると、隣の不良がエビフリャーにフォークをぶっさした。背後に厨二的な暗雲が見へる。え、なにこれ怖いww
「黙ァって飯も食えんのか貴様」
「おこっちゃやーよ」
ぶっちゃけ確信犯ですが、なにか? 文句あんなら病院が来いっつーのバルスバロス!
ジョジョ的な効果音を背負って睨む不良にテヘッと笑いかけると、奴の額に素晴らしい青筋が浮かびました。ちょっちつつきたいね、ソレ。
思う様手を伸ばしてサワッと一撫ですると、不良は見事に首筋まで真っ赤になった。わ! 一瞬!
でっへっへ。お主はウブよのぅ。ここがええんか? ここがええのんか!
こめかみに伸ばしていた指先で頬のラインから顎のラインを優しく撫でていく。そうすると怖い顔の不良はピルピル震えながら涙目になった。なにこの可愛い生き物。捕獲せねば!
僕の正直あんまない美点は素直な所。あまりの俺の素直さに、全俺が泣いて喜ぶ。この生き物怖可愛い! 思ったら捕獲! が体格が大分違うので僕コアラな状態。
「おまっ、離れろクソが!」
「いやん、夜の事思い出しちゃった? ダーリンのえっ」
「それ以上口開くなら拳ねじ込むぞ!」
いやいや、DVダメ、絶対。その骨太の拳なんか口に……お、大きくて入らないよ?
リアルに口が裂けますスプラッタはいやん!
「キメェんだよいちいちいちいち!! 触んなっ」
「恥ずかしいからってあからさまに避けんなよぉ。よいではないかよいではないか」
「ん、も……多戸助けてぇえ!!」
ここで多戸君呼んじゃうあたり、ダーリンもヘタレよね! アタイの何が不満なのよ。
さて、程なく同室者を伴った多戸君が苦笑を浮かべながらダーリンの悲鳴に駆けつけた訳ですよ。何よ多戸っち、どこのヒーローなの。
「絶好調だね壱伊」
「まぁぬ!」
「で、いい加減そこでプルプルしてるデカいチワワ、離してやったらどうなの」
僕の対面に座る多戸の隣に腰をおろしたのは、多戸君の同室の篤美君。名字は忘れた。多戸君が篤美君篤美君うっさいからぶっちゃけ篤美君としか覚えてないし。
「……」
「デカいチワワ、泣いてるじゃん」
さっきから喋らんコアラの止まり木は、ちょっとまっちろになって黄昏ていた。なんか可愛いので口にエビフリャーを突っ込んで、出したり突っ込んだり出したり突っ込んだり。
「ムガァァァアア!」
「ちょ、公開セクハラ禁止!」
「フハハハハ! だが断る!!」
嫌悪感ばっちり、ゴミを見るような眼差しで篤美君が叫んだので僕はいい笑顔で叫び返した。
なんか楽しくなってきたのでダーリンに抱き付いたまま、アレに見立てたエビフリャーをひたすらダーリンの口に入れたりなぞったり出したり、ちょっと奥まで突っ込んだり。段々唾液が絡んで、衣の油でテカッた唇が卑猥だなぁニヨニヨとかしてたら、額に青筋浮かべたダーリンに吹っ飛ばされた。
やべ、キレた。ちょ、まさか生身の人間からほとばしるエナジーを感じるとは。
今のダーリンならスカウターも爆発すんじゃね?
え、それちょっと見たいとスカウターの開発を本気で考え出した時、むんずと後ろ襟首を掴まれた。
「ぐぅえっ」
「うわ、汚い」
「多戸、悪いが片してくれ」
「しょうがないなぁ」
後ろも振り返らず、僕の首を絞めるダーリンはまるで荷物のように僕を食堂から引きずり出しにかかる。
ネクタイとシャツのボタンをなんとか緩めて気道確保した僕は、緩やかに苦笑を浮かべる多戸君に手を振って笑った。多戸君も仕方なさそうに笑いながら手を振ってくる。隣の同室者はイニシャルGでも見るように僕に視線を向けていた。
僕は、多戸君の微妙に察しが良いところが大好きだ。
ドサリと投げ飛ばされたのは、ダーリンの寮部屋のベッドだった。シンプルな室内にいつも少しだけ寂しくなる。今度は僕の部屋のものを搬入してやろう。
仰向けの僕に覆い被さったダーリンが、飢えた獣みたいな純粋な欲求のみを移した眼差しで僕を捉えた。
いやぁここまで長かったな。
「で?」
「ふにゅん」
てっきりこのままゴーヘブンらんらんらららんらんらんかと思いきや、目を瞑ってキス待ちした僕の唇にダーリンの掌がかぶさった。瞳の渇いたざらつきと口調の理性がちぐはぐで、どうかしたのか首を傾げる。
「テメェはいつまでそのキャラなんだよ」
ギラギラした黒い目が僕を真っ直ぐに貫くのは、どうしようもない悦楽を僕にもたらす。尾てい骨から背筋を通り、脳髄を駆け抜ける間違いようのない快感。
「ぅあっ……」
駆け上がる快感に逆らわず、僕は小さく震えて声を漏らした。どこもかしこも期待して感覚が尖ってくる。
触って。触って。
「おちょくれば俺がテメェに手ぇ出すと思ったか?」
理性の唇を裏切るみたいに、彼の手が僕のYシャツを引き裂いた。どうしようもなく立ち上がった乳首が恥ずかしくて顔を背ける。でも、差し出すみたいに胸を張ってしまうのを止められない。
「ひんっ」
「乳首ガチガチにして、そんなに飢えてんのかよ、変態」
「あっ……ぃあっ」
捻る、抓る、こねる。良いように彼の指先で強く引っ張れる乳首をつい目が追ってしまった。その先に、濡れた彼の瞳がある。
そうなるともう駄目だ。快楽に弱い僕の脳はただ彼に全てを捧げ彼をむさぼる事しか考えられなくなる。
僕は震える吐息で押し潰される乳首を更に彼に突き出し、もっと苛めてとささやく。
「何要求してんだ変態。俺の質問に答えろ」
「ぃっ……うぁあっ!」
乳首の先に爪が食い込んで、本能的な恐怖で叫んだ。何度かグリグリと爪先をねじ込まれて腰が跳ねる。
「このまま女みてぇに乳首だけでイカせてやらうか? 服着ても何しても乳首が気になる身体にしてやるよ」
「やっ、や……も、やんない……やらないからァ……うぁっ、あっあっ……ねが、ちゃんと」
「イイコにしてたら、ちゃんとご褒美やるって言ってんだろ」
「ぅんっ……ご褒美、ほしっ……ッ!」
従順に頷いた途端、右の乳首を吸われて左の乳首に思いっきり爪を立てられた。訳がわからないまま閃光が走り目の前が白く染まる。自分のものじゃないような荒い呼吸に少しばかり笑いが漏れた。
いや本当に、焦らされた。かれこれ三ヶ月も待たされたが僕の身体はちゃんと彼を覚えていたらしい。
あー本当に勘弁して欲しいよ。長かった長かった。
「ハッ、マジで乳首でイッたのかよ」
「お前が待たせるから、だろ」
鼻で笑った彼にそう返すと、僅かに眉を上げてあの瞳で真っ直ぐ僕を貫いた。
「遊びは終わりか?」
「お前がさっさと根を上げたらもっと早く終わったよ。ったく何根性比べみたいな事になったんだ」
「結局お前の一人勝ちじゃねぇか」
ふてくされたように呟くダーリンは可愛い。
きっかけはなんだっけ? そうそう、喧嘩だ。隣の部屋が賑やかになった僕の部屋に彼が寄り付かなくなったのだ。
彼の同室者は生真面目だからこういうのは基本僕の部屋でしかしなかった。だから、必然的に禁欲状態になって。
「あのキャラは止めろ。マジで一回病院に連れてくか迷った」
「ふふっ」
結果、喧嘩になって僕の嫌がらせ兼誘惑が始まりました。面白かったけど、三ヶ月はちょっと長すぎたな。
僕はうっそりと笑い、ベタベタになったズボンをわざと、彼に見せ付けるように脱いだ。ヌチャリと糸を引く白濁が我ながら卑猥だ。上出来。
濡れた下半身に向けられる彼の目が熱を増す。それを見て陶酔するみたいに背筋が痺れた。久々の、彼の視線、熱。
「ね、早くご褒美……ちょうだい」
「チッ……」
舌打ちした彼の唇を舐める。ちょっと油臭くてうっかり笑ったら、また乳首を抓られてしまった。
スイッチ入るとちょいSになるからたまらない。普段はヘタレで、篤美君も言ってたが巨大チワワみたいなのに。
意地悪くまだ焦らしてくる指先に噛み付いて、僕は被さってくる久々の彼の重みをゆっくりと堪能するべく目を閉じた。
END