ある日突然
……えー、端的に俺の状況を説明しよう。
俺、只今見知らぬやけにファンタジックなコスプレをした色黒の兄ちゃん達に、見るからに重くて鈍器でも逝けんじゃね? って感じの剣を突き付けられながら、周りをぐるッと囲まれておりますよ。
「えーと、わ、わっちぁねーむ?」
とりあえず、日本人でない事は見るからに明らかなので、武器を突き付けられた人のお約束よろしく敵意が無い事を両手を挙げて伝えながら、自分でも怪しいなぁと思う英語で話掛ける。
「******!?」
「****!」
「*******!!」
わぁお全く知らない言語ですよ。
と言うか、ここは一体……どこ?
冷静何だか混乱してんだかよく解らない頭で辺りを探る。
見たこともないような広大な草原は、教育テレビで見た遊牧民が暮らすモンゴルを思い起こす。
だとしたら、ここはモンゴル?
わぁー、ついにドコデモドアが開発されたのかな?
だって、俺は、めでたくこの春高校を卒業する事になりまして、友人数人と卒業旅行に出掛けるべく、うっきうきしながら旅行鞄を持って家の玄関を出たんですから。
つまり、俺ン家の玄関がドコデモドアに?
「そんな訳あるかぁぁああ!!」
とりあえず、俺は力一杯否定しました。
だって俺ン家の玄関がドコデモドアだったら、俺は間違い無く皆勤賞を取った(俺は高校入ってから遅刻はしても休んだ事は無い)だろうし、家族で出掛ける時も態々車に荷物詰めたりしないだろう。
玄関開けたら、そこはモンゴルでした……って完璧な不法入国だなオイ!!
「******!」
「***!」
「*******!!」
と、俺が思考をフッ飛ばしてると、周りのモンゴリアン(?)達がざわめいて道を開ける。
なにこれ、何これ。某チンギス氏の登場か何かですか?
「******」
出来た道を悠然と歩いてきたのは、やはりファンタジックな甲冑を身に付けたいかつい兄貴系の男。
浅黒い肌に彫りの深い顔立ちはインディアンを連想させるが、彼は顔に染色料を塗りたくってはいないし、衣装はどちらかと言うと傭兵っぽい。
当然ながら見覚えが無い俺は、手を挙げたまま見下ろしてくる鋭い碧眼を呆然と見上げる。獅子のたてがみの様な金髪が風になびいて、最近流行りのファンタジー映画の一幕みたいだった。
つか、背デカいな。俺はこれでも七十センチ軽く超えてんですが。
「*****?」
目の前のモンゴリアンだかインディアンは、やはり全然解らない言語で俺に話掛けてくる。
こんな時に翻訳コンニャクがあればとてつもなく便利だな。
「えーと、あーゆーすぴーく、いんぐりーっしゅ?」
一筋の希望を込め俺は問掛けたが、返って来たのはやはり意味不明な言語だった。
「*****!」
「へ、ぇっ!? うわっ……ちょっ!!」
兄貴系の男は周りの武器構えたファンタジックコスプレの人達に何かを叫ぶと、ヒョイッと何でも無いように俺を俵担ぎにする。
慌てて旅行鞄を掴んで振り返れば、そこには馬の様な鹿の様な、つまり馬に鹿の角が生えたような生物がいる。
「何なになにっ!?」
俵抱きにされているので男の石みたいに固い肩が腹に食い込んで、痛い思いをしながら懸命に叫ぶ。
しかし男は止まる事無くその馬だか鹿の前行くと、俺をその生物に乗せて自分も俺の後ろへと飛び乗った。
「*****!」
「*******!」
「ちょ、まっ……嘘ぉぉおおお!?」
男が一声上げ、呼応するように周りが叫び、その馬だか鹿は一気に駆け出した。
だ、誰か、状況報告を! エマージェンシー! エマージェンシー!
後ろからはさっき俺を取り囲んでいたコスプレの人達が地響きを立てつつ、走って追い掛けてくる。
怖い怖い怖い怖いぃぃいい! なんつーか、顔がめっさ怖いから!
「つか、何が、どうなってんだよぉおお!」
旅行鞄を抱き締めて叫んだ言葉は、風と地響きにかき消された。
誰でもいい、マジで状況の説明をお願いします! 何がどうなって、俺ン家の玄関がドコデモドアになってて、俺はモンゴリアンだかインディアンに連れ去れてる訳!?
「ここ、どこなんだよォォオオ!」
叫んだ言葉は、やはり風と地響きによってかき消された。
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