瞼を開ければぼんやりと天井が見えた。目が覚めたと同時に激しい不快感に襲われた。頭が割れるように痛い。ぐわんぐわんと目眩がする程の気持ち悪さに耐えながら布団の中から這い出すと、ゆっくりと上体を起こした。何か違和感を感じた。





「あ、雨降るかも。」
「どうして?」
「だんだん曇ってきた。」
「雨は嫌いなの。」
「そう?俺様は嫌いじゃないよ、雨。」






頬にそっと触れると、何やら少し濡れているようだった。朝だというのに不思議な程に静かで、まるで自分以外の人間は何処か遠くに行ってしまったような感覚に陥った。障子の隙間からは朝日の代わりに濃い灰色の空が顔を覗かせていた。何か、が足りない気がする。





「名前、」
「何?」
「散歩しようよ。」
「雨の中?」
「傘させば大丈夫だから、ね?」
「雨は嫌いって言ったでしょ。着物が濡れちゃうわ。」





部屋から出ようと立ち上がろうとすると足が上手く動かなかった。障子を開けようと手を伸ばせば、突然ぽつり、ぽつり、と地面に何かが落ちる無数の音が聞こえてきた。雨が降ってきたのと同時に障子の向こう側から誰かの気配を感じた。何故か酷く懐かしい感覚を覚えた。






「そっか…」
「そんな顔しないでよ。」
「あはは、」
「散歩なんていつでもできるわ。また今度にしよう。」
「………“また今度”、ね。」






それはまるで時間が止まったようだった。障子を開けた途端、視界は白と黒のみで、音が消えてしまった。眼下にははっきりと雨が地面に激しく打ち付く様子がみえるのに、何一つきこえない。まるで世界から音が消えてしまったようだ。それだけではない。自分の体温も、風も、何もかも感じられない。私の世界から全てが消えてゆく。

音も色も風も、それから、






「さ、すけ」






魚の水に離れたよう



ただひとつの頼りを失ってどうすることもできないさまのたとえ



title selka.