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なんかよく知ってそうに色々と医学用語かいてありますが、あくまでも素人が書いたものですので、ここに載っていた知識を絶対鵜呑みにしないでください。


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男女が出会うと体内に性ホルモン、エストロン・エストロゲン等が分泌する。そして恋に堕ちるとドーパミンとセロトニンが分泌される。そして互いに親密になるのを望むとセックスなどに発展、男女が触れ合うと、体内にはオキシトシンが分泌される。オキシトシンは互いに触れ合いたいという感情にさせる効果がある。このオキシトシンは授乳時にも分泌される。恋と母性は似たようなものだと考えられる――。

「…で、結局何が言いたいんですか、伊達先生。」

コンクリートの無機質な壁に囲まれた十字を背負ったこの建物の中は、鼻をつんと突き刺すような消毒液の香りが充満していた。忙しなく稼働する空気清浄器の音が四六時中聞こえ、周りの人間は汚れ一つない純白な白衣を着こなす。昼間は慌ただしい雰囲気のあるこの総合病院だが、消灯時間を過ぎた院内は夜はまるで闇の中のように暗く静かで、恐ろしい。今日は運悪く夜間の担当で、今にも幽霊ができても可笑しくないような環境で仕事をすることになってしまった。いや、今は幽霊なんかよりも、色んな意味で恐いものに出くわしてしまった。入院している患者の見回りを終えて、早々とナースステーションに戻ろうとして歩いていたら、急に後ろに腕を引っ張られた。驚いて振り向けば其処には足のない幽霊の姿の代わりに、にたりと不敵な笑みを浮かべて私の腕をしっかりと握った当院の外科医、伊達政宗の姿が見えた。

「悲しく思わねえか、なあ?」

にたりと口角を吊り上げて彼は私に問いかけた。彼の言いたいことが解らなくてまた再びはあ?と顔を歪めた。私が困惑する様子を見て、彼は何が面白いのかまたその白い首に突き出した喉仏を上下させてクククと笑う。黒渕眼鏡の奥の左目が廊下の窓から射し込む月明かりで鋭く光る。ファッションモデルのように白衣を着こなしている彼を見ると、その姿は医者ではなく、コスプレをしているようにしか見えない。

「名前、」
「先生、仕事中は私語を慎むようにと約束したじゃありませんか。」

ぱしりと冷たくそう言えば、彼は少し怪訝そうに眉間に皺を寄せた。

「随分冷てえなあ、それが愛するboyfriendに言うことか?」
「プライベートではいくらでも名前で呼んで下さって構いませんが、仕事は仕事ですから。」
「stoicだな、そういうところ好きだけどな。」
「で、さっき言ったのは一体何なんですか?」
「無視かよ。」

色々と無視してまた話しを戻すと、彼はまたばつが悪そうな表情になった。そして傍にあった廊下に設置されていた長椅子に凭れた。私は彼に腕を引っ張られて、強引に隣に座らされた。

「性ホルモンのエストロン・エストロゲンの効力は長くても2年だ。」
「はあ、」
「俺たちが付き合ってどれくらいたった?」
「2年、ですか。」
「Yes。残念なことに名前の中のドーパミンとセロトニンの効果が切れ始めたんだ。」
「それが何か?」
「それが最近俺に冷たくなった原因だ。」
ドーパミンとセロトニンは好きになった人物の弱点を隠す。恋は盲目なんていうけれど、人間は元々そういう風に都合よく作られているのだ。だがドーパミンとセロトニンの効果には限界がある。効果は2年もつか持たないかだ。ああ、だからか。付き合い始めた頃よりも、最近は彼の嫌なところばかりが目につくような気がしていたのは。彼はたまにこのように物事を哲学的に話すので頭が痛くなる。同じ職業の人間でなかったら今頃理解に苦しんでいただろうに。ただでさえよく解らない彼が、またよく解らないことを並べるのだから。

「そんなくだらないことを考えていたんですか?」
「ha、くだらないとはよく言えたな、この危機を。」
「どうして?」
「自分のgirlfriendにはいつもcoolな俺を見て欲しいんだ。」

真面目な表情をして語る彼を見ていたら、なんだか無性に可愛く思えた。何て馬鹿で愛しいんだろう。私は仕事中にも関わらず思わず彼の頬にキスした。何だかんだ言って結局、医者なのに医者らしくない政宗が、馬鹿みたいに素直な政宗が、よく解らない複雑な政宗が、やっぱり私は好きなんだ。ふふ、と笑う私を見て、つられて彼も笑った。月の優しい銀色の灯りに照らされた彼がかっこいいな、と純粋にそう思った。




この愛は致死量のモルヒネ



オキシトシンは留まることなく溢れだしているようだ。

title guilty.