がたりごとりと鈍く肩に重くのし掛かるような音をたてて、電車と呼ばれる鉄の籠の中は揺れていた。窓越しに見える夜の都会(まち)の景色は酷く美しかった。遠くに見える天まで高く聳えて、存在を誇示するただデカいだけのビル、その下には繁華街の目を閉じたくなるくらい色鮮やかで頭のいたくなるような色彩の灯りが、空に貼り付いていた数える程の星の明るさと存在を見事に消し去っていた。電車が揺れるにつれて、ぶらりぶらりと手すりも揺れた。優雅に揺れて美しく舞うその沢山のわっかが、まるて首を吊るときに使うロープに見えた。プシュー、という音とともにガタガタと扉が開く。鉄籠から脱出し、早々と駅を抜ける。空の様子があまりよくなかった。きっと雨がふるだろうと踏んで、速く帰宅したかったのだ。だが、空からは既にぽつりぽつりと都会のCO2を十二分に吸ってくすんだ色に染まった雨粒が、落ちてきていた。生憎、傘は持っていない。溜め息を吐く代わりに、今まで噛んでいたガムを駅の階段に吐いて捨てた。その間にも雨はしっかりと俺に悪意をもったように降り続け、いつの間にかバケツをひっくり返したような土砂降りに変化していた。周りを見れば、予め雨が降ることなど知っていたと言わんばかりに折りたたみ傘を取り出して広げる人や、傘を渡しに迎えにきた人間の姿がちらほら見えた。こうして俺が困り、立ち止まっている間にも無数の人間の塊たちが俺の存在など無いもののようにすれ違い、いつもと変わらず物事を営んでいた。激しく雨が降る中でも相変わらず繁華街は美しく彩っていて、遠くのビルは崩れる事なく聳えたっていて、電車は遅れることなく走り、人々は何事もないように群れをなして歩き、、無数の意味を持たない言葉と雑音が四方を飛び交っていた。違うのは、いつも雨の日には迎えに来てくれたあの見慣れた淡い水色の傘が見当たらないことだった。強く目を瞑り、意を決したように滝のような雨の中に飛び込んだ。雨はみるみるうちに髪や頬、目を濡らし、首筋やら袖の隙間を伝って身体のあらゆるところから入り込んだ。道の真ん中で立ち止まって空を見上げれば、はっきりと空からは大きな雨粒が地上へと飛び降りてつよく地面に打ちついていた。その様子はまるで誰かが激しく哭泣しているかのようだった。そんな空の姿が、まるで自分の心の中を鮮明に映し出しているようだと思った。すると急に左目の奥が熱くなって、生暖かな滴が雨と一緒に頬を伝ったので、これも雨なんだと思っておくことにした。ぐしゃぐしゃに濡れた片目で見た都会の光は相変わらず綺麗だった。



哭泣


いつもと違うのは、君の姿がないだけ


哭泣:こっきゅう
大声を出して泣き叫ぶこと。



title selka.