遠くで自分の名を呼ぶ声がする。はじめは細く弱いものだったが、だんだんと大きくなっていく。女の声のような気がするが、誰かはまだ分からない。






声は確実に近づいてくる。柔らかくて心地の好いその声は優しく憂いを帯びたような口調で俺の名前を呼ぶ。だけどまだ誰が読んでいるか鮮明には分からない。






俺は暗くて寒い場所に居た。何もかも暗闇に包まれていて、前後不覚だ。そのせいで何度か転んだが痛みはあまり感じない。まだ声が聞こえる。今度は耳元で囁くように俺の名を呼ぶ。此処でやっと誰が俺のことを呼んでいるかぼんやり気づく。






その女は泣いていた。名を呼びながら泣いていた。泣いている理由を俺は知るよしもない。まだ暗闇の中をさ迷いながら、声の主を探す。彼女の泣き声を聞いていると心が包丁で突き刺さったかのような痛みと悲しみが走る。速く、速く彼女に会わなけ……れ、ば…………











「…政宗さ、ま。」
「good morning。」
「…もう二度と目を開けてくれないかと思いました。」



名を呼ぶ


一個しかない目を開けたら、目を開けた俺を見て泣きながら名を呼ぶ名前がいた。