「元親には図書館が似合わないね。」
「うるせえ、」

久しぶりに近くにある図書館に足を運んでみた。そしたら何故か俺も一緒に行くって元親がしつこく言ってきたので、おまけに連れてきた。と言っても彼は別に図書館に用は無いんだろうけど、まあ、本を運ばせるのに丁度良かったから、五月蝿くしないのを条件に連れてきた。

「なんか、こう、落ち着かねえな。」
「普通は静かだと落ち着くもんでしょ?」
「いや、他の奴らとギャーギャーやってる方が落ち着く。」

だったら来なきゃいいじゃん、言いかけて止めた。(此処で喧嘩したら迷惑だもんね。)私は目当ての本が並んでいる本棚を見つけて足をとめた。沢山の単行本が規則正しく並ぶ様子が見ていてなんだか気持ちがいい。その反対に、元親は沢山の本を見るなり、げっ…、という声を漏らし、実に嫌そうな顔をした。
「君みたいな御馬鹿さんには難しすぎるかなあ??」
「お、俺だって本の一冊や二冊ぐらいっ」
そう言って手を延ばし、適当に本を一冊手にとった。焦ってるの丸見え、本当に御馬鹿さんなんだから。

「あ、これあれじゃん。」
「ん?」

本の表紙には坊っちゃんと書いてある。有名な文豪、夏目漱石の作品だ。なんだ、元親知ってたんだ、夏目漱石。奇跡だ。
「昔の千円札のオッサンが書いたやつ。」
うんまあ、そうなんだけどさ。名前知らないのかな。元親は結局そのまま読むことなく本を戻した。私はなんだか夏目漱石に申し訳ない気持ちになって、しまわれた本を手にとった。

「かりるのか?」
「うん。何となく。」

私がそう言うと、元親は、夏目漱石っつうんだ、そのオッサン。とぶつぶつ話していた。
「…………。」
私がかりたかった本は丁度貸し出されているらしくなかった。結局私は別に読みたくもなかった夏目漱石の坊っちゃん一冊をかりた。勿論、元親は一冊も貸りなかった。一体私も彼も何しに来たのか解らなくなって、虚しい気持ちになった。

「帰ろう。」

外はもう薄暗く、太陽はもう隠れていた。空にはぽつりと真ん丸なお月様が浮かんでいた。何て綺麗なんだろう。私は珍しく自分から元親の手を握った。元親は最初はちょっと吃驚してたけど、ふっと笑うと強く握り返した。


月が綺麗ですね


愛しています。