アリス喫茶までの道のりでピンク髪の人と自己紹介を交わしたところ、彼は花巻くんというらしい。そしてやっぱり及川や岩泉と同じバレー部に所属しているみたいだ。そんな花巻くんはどうやら甘いものが結構好きなようで、ワッフルを食べるつもりで訪れたアリス喫茶だったけれど結局成り行きで花巻くんとパフェを食べることになった。なんでも花巻くんは上に乗ってるプチシューを食べたいそうだ。もしかしてこれがあたしを誘った一因だったりして。プチシューが乗ってるパフェは二、三人用のそこそこ大きなもので、岩泉は甘いものがそこまで好きではなかったはずだし、これを一人で食べるのは少し厳しいだろう。別に聞くほどのことでもないから本当のところはどうかわからないけど。


「天茶ってこの後どうすんの?」


運ばれてきたパフェはやっぱりそこそこ大きかったけれど、花巻くんがプチシューをほとんどかっさらっていってくれたおかげで食べきれない量ではなさそうだ。ゴールの見えてきたパフェをスプーンに掬って頬張っていると、依然うさぎ姿のままの及川がこちらへとやって来た。
ちなみに岩泉にも少しくらい食べてもらおうとパフェを勧めたところ、三口でギブアップして今はコーヒーを飲んでいる。


「んー、もう帰ろうか悩み中ー」


パフェが来る前にスマホを確認したとき、友達からありがとう頑張ってみる、という旨のラインが来ていたことを思い出す。あたしはもう用なしみたいだし、パフェを食べたことでちょっと満足したからもう帰ってしまおうか。友達を置いて帰るのは少し気が引けるけど、ラインしておけばきっと許してくれるだろう。


「俺もうすぐで休憩だから、友達と合流する気があるならそれまで案内してやれるよ」


時計を見ながらそういう及川に、ほとんど帰る方に傾きかけていたあたしの思考が逆の方へと揺れた。及川が案内してくれるなら暇を持て余すこともないし、なによりこの学校の生徒が案内してくれるのだから文化祭を十分に満喫することができるだろう。友達を置いて帰ることにもならないし、お願いしようかなと迷っていたら「及川ー!指名ー!」と及川のクラスメイトから声が掛かった。指名ってなんだ。そんなあたしの心の中でのツッコミを余所に、その声に及川は返事をしながら、もう少しで終わるから席で待っててと一言あたしに言い置いてさっきの声の方へと行ってしまった。結局返事をしそびれてしまったけど、どうやら及川自身はもうその気になってるみたいなのでこのままお願いすることにしよう。去って行く及川から視線を逸らせば、何故か花巻くんがこちらをじーっと見ていた。


「岩泉とは卒業以来会ってなかったみたいだけど、及川とは結構会ってたの?」
「あー、うんまあ一応。たまにだけど」
「へえ、やっぱ仲良いんじゃん」


果たしてこれは仲が良いのだろうか。確かに悪くはないとは思うけど、及川と卒業以来も会っているのは及川に呼び出されるからだし、しかもただフラれた及川を慰めているだけだ。別に頻繁に会って楽しく遊んでいるわけではない。まあたまには遊びに行くこともあるにはあるけど。でも、あたしが及川に会うときのほとんどは慰めるくらいしかしていないし、本当にただそれだけなのだ。


「あ、俺もう時間だから行くわ」
「もうそんな時間?」


あたしと及川が仲が良いという言葉に曖昧な反応しかできずにいると、時計を見た岩泉が少しだけ残っていたアイスコーヒーを飲み干して立ち上がった。岩泉の言葉に花巻くんも時計を見て立ち上がる。


「俺ももう行かねーと。じゃーね、透香ちゃん」
「岩泉も花巻くんもありがとう。またね」


手を振って二人を見送った後、手持ち無沙汰になったので机に視線を落とせばそこには空になった容器だけが残っていた。もちろんパフェも空だ。あたしも結構食べたとは思うけど、多分花巻くんはあたし以上に食べていたと思う。さすが言い出しっぺというかなんというか。完食できたのは間違いなく彼のお陰だ。
一人になってすることもなくなったのでなんとなく辺りを見渡してみると、アリスやチェシャ猫、帽子屋などの仮装をした人たちが忙しそうに動き回っていた。どうやらアリス喫茶はそれなりに繁盛しているらしい。そんな賑わいを観察して時間を潰していると、思っていたよりもすぐに及川がこちらに戻ってきた。


「天茶、お待たせ。岩ちゃんとマッキーはもう行っちゃった?」
「お疲れー。二人とももう時間だからってついさっき」
「そっか。じゃあ俺らも行こっか」


及川の言葉に頷いて立ち上がる。まずはどこから行こうか、なんて話をしながら二人でアリス喫茶を後にした。こうして及川と学校で二人並んで歩くのは久しぶりで、なんだか変な感じだ。自分の通っている学校じゃないから余計に。まさか中学を卒業してからもこんな風にこいつと校内を歩くことになるなんて。なんか中学のときに戻ったみたいだね、って言おうとしたところでふとあることに気付いて口に出そうとした言葉は勢いをなくして消えてしまった。そんなあたしを余所に、及川はいつもの調子であたしの隣を歩いている。昔より背が伸びた及川を見上げてみたら、すぐに目があった。


「どうかした?」
「……及川なんて将来ハゲればいいのに」
「え、いきなりなに!?」


相変わらずうさぎの格好をしているものの、その整った端整な顔になんだか無性にいらっときたので小学生レベルの悪口を口にしておいた。それに対する及川の反応は無視して及川から目を逸らす。
さっきから感じる視線が、うさぎの格好に注目しているだけのものならいいのに。突き刺さる視線に、ひっそりとため息を吐く。及川の誘いに頷いたのは失敗だったかもしれない。



20150817

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