「いらっしゃいま……ゲッ」
「あれ、天茶?」


三ヶ月ほど前から働いているバイト先のファミレスにお客として及川が来た。女と一緒に。…まだあれから一ヶ月しか経ってないのにもう彼女ができてる辺りさすがとしか言い様がない。ていうか、来るもの拒まずなのやめろって言ったら考えとくって言ってたよね?まだ一ヶ月しか経ってないんだけど。絶対やめる気ないでしょこいつ。わかってたけど。


「へー、ここでバイトしてたんだ」
「天茶さんと徹くんって知り合いなの?」


あたしのことを知ってるかのような口ぶりに及川に腕を絡めてる女の子をちらりと見ると、その子が見慣れた制服を着ていることに気付いた。どうやら次はあたしの通ってる学校の子に手を出したらしい。しかも、去年確か隣のクラスで体育の時間が一緒だった気がする。話したことはないし、名前もちゃんと覚えてないけど。多分この子もあたしの名前なんて今の今まで覚えてなかったはずだ。きっと及川があたしの名前を呼んでるのを聞いて聞き覚えあるなと思ったら顔見知りだったってところだろう。


「天茶とは中学の同級生なんだ」
「…ふーん、そうだったんだ」


及川の言葉を聞いてあたしに見せつけるように腕に絡みつく力を強めてじろりとこちらを見た目が何を言いたいかなんてすぐにわかって、辟易とした。
天茶さんもどうせ徹くんのこと好きだったんでしょ?でも残念、もう私のものだから諦めてね。多分そんなところ。見下すようにこちらを見てくる挑発的な目にとても苛立ったけど、ここで睨み返すわけにもいかないので気付かないふりをして目を逸らして、テーブルへと案内するために歩き出す。

あたしが及川を好きだなんてそんなことあるわけないのに、馬鹿じゃないの。大体こんな女に囲まれまくりの男なんかと付き合ったら苦労するに決まってるのに。きっと優越感に浸ってられるのも今だけだ。


「……こちらのお席にどうぞ」
「えー、私あっちの席がいい」


未だに及川から離れずべったりな彼女の言葉に一瞬顔が引き攣りそうになった。…こういうお客さんってめんどくさいと思うのはあたしだけじゃないはずだ。一瞬顔が引き攣りそうになったのを見抜いたのか、及川は肩を震わせて笑いを堪えている。後で絶対殴る。


「…かしこまりました。それではあちらのお席へどうぞ」


仕方なく営業スマイルを貼り付けて指定された席へと案内した。ご注文が決まりましたらお呼びください、とだけ伝えてさっさと離れる。…出来る限りあのテーブルにはもう近付きたくない。彼女の態度にイラつくのはもちろん、及川があたしのバイト姿をさもおもしろいものを見るかのように見てるのがわかるからだ。こうなるのがわかってたから、バイト始めたことも教えてなかったっていうのに。






「店員さん」


及川たちの近くのテーブルに料理を運んだ帰り、声をかけられた。無視することもできずいやいや振り返るとそこには彼女の姿はなく及川だけ。鞄はあるしお手洗いだろうか。


「…なんの御用でしょうか」
「手、出して」
「やだ」
「そんなこと言わずにさ」


仕方なく言う通りに及川の前に手を出す。今バイト中だから及川なんかに構ってる暇ないんだけどな。


「意外とバイト頑張ってるみたいだからこれあげる」
「…ミルキー?」
「中学の頃天茶これ好きでよく食べてたよね」


及川の手からあたしの手へと渡されたものを見るとそれは包み紙に包まれている一粒のミルキー。…確かに中学の頃はこれが大好きでよく食べていた。最近は全然食べてなかったから懐かしい。

でも──


「こういうところがだめなんだよきっと」
「え?」
「…なんでもない。ありがとう」


彼女がお手洗いに行ってるときで良かった。きっと彼女に今の場面を見られてたらめんどくさいことになってたに違いない。及川がそれをちゃんとわかっているのかどうかは知らないけど。


彼女以外に必要以上に優しくするのやめたら、っていう言葉は言うのをやめた。言ってもきっとやめないだろうし、なにより女に優しくない及川なんて想像できなかった。




20140801

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