及川はモテる。だからなのかなんなのか彼女がころころと変わる。しかも終わり方はいつも同じで必ず及川がフラれて終わる。そんな来る者拒まず去る者追わずな節がある及川だけど彼女になった子にももちろん優しいし、ちゃんとその子のことを好きにもなるのだ。そしてそれは多分毎回それなりに本気なのだと思う。現に彼女と別れたら落ち込んで必ずあたしに慰めを要求するのだから。そんな彼のフラれる理由は他校にまで及ぶファンの数だとかバレーに打ち込みすぎるところなんかが恐らく主な原因なのだろう。それは及川本人もわかっているはずなのに全く改善をするつもりのないこの男は、それなら何故フラれてこんなにも落ち込むのか不思議でならない。ファンの数は本人にはどうしようもないとはいえ他の女の子に優しくするのをやめればいい。だけど及川はきっとそれをしないだろうし、バレーより彼女を優先することも絶対にないだろう。それなら、そのことを理解してくれる女の子を見つけるなり彼女を作らず潔くバレー一筋になるなりすればいいというのにこの男は来るもの拒まずでしかも遊びではなくそこそこ本気になってしまうのだから質が悪いのだ。だからこうして落ち込むことになるというのに。


「あんたは一体何がしたいの」


見慣れた及川の部屋で、いつものように布団に横になっている及川と、そんな及川を余所に座椅子に座って壁際の机でケーキとココアを楽しんでいるあたし。ちなみにこのケーキとココアはいつもあたしが及川の家を訪ねるとすでにセッティングされている。どこで買ってるのかは知らないけど及川が出してくれるケーキは毎回とてもおいしくて、これが目的であたしは懲りずに及川からのメールでの呼び出しに応じてしまうのだ。正直ケーキがなければこんな奴に用はない。今日のモンブランも文句なしにおいしくて満足だ。一つだけ文句を言うのなら及川の部屋が和室なのがちょっと残念。畳の部屋でケーキってなんだかミスマッチだ。まあ、もう慣れたけど。


前回来たときから二ヶ月と少し。まあ高校生からしたら今回も長くも短くもない期間のお付き合いなのだと思う。
中学時代の同級生である及川とは別々の高校に進んだけど、及川が彼女にフラれる度にあたしが及川の家を訪れるこの習慣は昔から変わらない。変わったことといえば、初めは慰めるとは名ばかりで実のところからかうために岩泉も一緒に引き連れて及川の家を訪れていたのがいつしか岩泉を引っ張って来ることがなくなって、そして別れるとすぐに及川からメールで呼び出されるようになったことくらいだ。いつからそうなったのかはあんまり覚えていないけど、確か中学卒業間近になった辺りからだった気はする。ケーキが用意されるようになったのも多分その辺りから。


「何がしたいって、とりあえず今は優しく慰めてもらいたい」
「もうあんたを慰めるのには飽きた」


優しく慰められたいなら他を当たってと言ったらひどいなあと及川は笑った。なんだ、意外と平気そうじゃん。心配して損した。お皿の上のケーキを一口サイズに切ってフォークで口に放り込む。


「及川さ、そろそろ来る者拒まずなのやめたら?」


ごっくん、ケーキを飲み込んで後ろの方を振り返れば及川はこちらに背を向けていた。…声は平気そうだったけど、やっぱりまだ落ち込んでるのかな。


「なんで?」
「及川のことをちゃんと理解してくれる子と付き合った方がいいんじゃない?」
「…理解してくれる子、か」


考えとく、と及川は続けたけど、多分変えるつもりはないんだろうな、と思う。

きっとまた数ヶ月もしたら慰めて、というメールがあたしの元にくるのだろう。そんな変わらない未来を予想しながら最後の一口を飲み込んだ。




20140801

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