すき、そう言えば目の前の研磨の顔が歪んで、泣きたい気持ちになった。けど、そんな気持ちとは裏腹になんでか口角は上がって曖昧な笑みが自分の顔に浮かぶ。


「……おれに嘘、つかないで」


嘘なんて言ってないのに。そう思いながらもそれは言葉にはならず、依然として微笑んだまま研磨から視線を逸らして止まっていた指先を動かして手元のスマホに文字を打ち込む。



あたしの口から放たれる言葉は嘘ばかりだ。たくさんの人に好きだと言ってきたあたしの言葉はとても安っぽくて、軽い。今の言葉が研磨に伝わらないのも当然だ。大好き、と打ち込んだ画面をぼんやりと眺める。なんて中身のない言葉なんだろう。


「いい加減、そういうのやめたら」
「そういうのって?」


スマホを弄っているあたしに掛けられた言葉が何を指しているのかなんて、本当は知っていながらわざととぼければ、研磨から非難めかしい視線が突き刺さる。わかってるくせに。そんな言葉が今にも聞こえてきそうだ。それでも何も答えずにいれば、研磨は黙ったままそれ以上何も言わない。

気にせず画面をタップして打ち込み終わったメッセージを送信する。きちんと送信されたのを確認してからトーク一覧に戻れば、他にも3人からメッセージが送られてきていた。めんどくさいなあ。返事を返す気になれなくて、メッセージを開くこともせずに画面を暗くしてスマホを放り投げ、そのまま上半身も座っているベッドへと投げ出す。


「……ここで寝ないでよ」
「んー、寝ない寝ない」
「この間寝たときもそう言ってた」


そういえばそうだったかもしれない。研磨の言葉にこの間研磨の部屋に来たときのことが思い出されたけど、そうだっけー?とまた適当にとぼけておいた。呆れたようなため息を吐く研磨の方を見る。ベッドにもたれている研磨の姿はここからじゃ後頭部しか見えない。プリンになっている金髪頭。研磨ほどではないけれど、カラーリングをしてそれなりに明るい自分の髪の毛をつまむ。今の研磨となら、見た目だけは隣に並んでも違和感はなさそうなのに。

いつもはくるくるとカールしている髪の毛は今日はまっすぐストレートで、化粧もナチュラルメイク。いつもならつけまつげをつけている睫毛はマスカラだけで、目元がとても軽い。研磨の家に来るときはいつもこうだ。そんな自分が意外と嫌いではないし、研磨の部屋にいるととてもホッとする。自分を着飾る必要のない研磨の隣は、どうしてこうも安心できるのだろう。

目を瞑れば、一度だけつもの化粧いつもの髪型、ついでに長く装飾された爪でこの部屋に訪れたときの研磨の言葉が蘇る。


今日のねえむ、嫌い。


あたしから目を逸らして、ぽつりと呟かれた言葉は今でも簡単に頭の中で再生することができる。そのときにあたしは悟ってしまった。あたし達は合わないのだと。趣味や嗜好といったものが研磨とあたしとでは全然違うということを。人と関わるのが得意なあたしと人と関わるのが苦手な研磨。幼馴染みでなければきっと仲良くなることなんてなかった。幼馴染みであっても、学校ではクラスが違うこともあって全く話さないのだから、あたしがこうして研磨の家に来ることをやめてしまえばこの繋がりは呆気なく失くなってしまうのだろう。それくらいあたしと研磨は違う。そんなあたし達がこれ以上深い関係になんてなれるはずがない。それを知ってしまった頃からだっただろうか。あたしの男遊びが始まったのは。いろんな人に好きだと嘘を吐いて関係を持って、…それを研磨はやめろというけれど、もうやめることなんてできないのだ。誰かに求められていないと不安になってしまうほど弱くなってしまったのはいつからだろう。それとも自分で気が付いていなかっただけで元からそうだったのか。


「ねえむ?……やっぱり寝てるし」


呆れを含んだ優しい声が耳にするりと入り込む。そのあと軽い重みが体にかかるのを感じたから研磨がブランケットを掛けてくれたのかもしれない。…目を瞑ってから、どのくらいの時間が経ったのだろう。もしかして寝ちゃってた?寝るつもりなんてなかったのに。
微睡みから抜け出すのが惜しくて目を瞑ったままでいれば、頭に何かが触れる。そのまま頭上を往復するそれが研磨の手だと気付いて、ぼんやり目を開けば研磨の顔が近くにあった。あたしが起きるとは思っていなかったのか頭を撫でていた研磨の手がびくりと反応する。そんな研磨を余所にそっと金髪へと手を伸ばした。


もし、もしもだ。いろんな人に求められることを望んでいるくせに、今の状況に何故だか苦しさを感じているあたしが、この先救われることがあるのなら、それを救ってくれるのは研磨であって欲しい。そう、願わずにはいられないくらいには惹かれているのだ。あたしと研磨が結ばれたところで、こんなにも違う二人がうまくいくはずなんてないとわかっていても。


「研磨、すきだよ」



どうか嘘だと嗤っておくれ

April 1, 2015
四月のフール様提出作品


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