「それじゃ、ね」


他愛もない会話をしながらの帰り道。最初は沈黙が続いたらどうしようって少し不安だったけど、気まずい沈黙が訪れることもなくあっという間に家に到着した。ちょっとした名残惜しさを感じながらも幼馴染みのおー、という軽い返事を聞きながら鍵を取り出すために鞄の内ポケットを探る。


「…あれ?」


鍵が触れるはずだった指先はいつまで経っても何かに触れることなく鞄の中をさまよっている。ない。鍵が。慌てて鞄の中を覗き込んで鞄の中を見渡してみるもどこにも見当たらない。…そういえば昨日お母さんにリビングから呼ばれて部屋を出るときに手に持っていた鍵をひとまず机の上に置いた気がする。そして、それを鞄の中にいれた記憶は、ない。


「どうかしたのかィ」


家の前に突っ立った状態から動かないあたしを不審に思った幼馴染みが声をかけてきた。鞄から顔をあげて振り向くと、向かいにある幼馴染みの家の扉前からこちらを見ている。


「鍵忘れた…」


あたしは一人っ子だから鍵を忘れたということは両親のどちらかが帰ってくるまで家には入れない。いつもなら帰りのはやいお母さんを待てば済む。だけど、今日は…。


「かーちゃんは何時に帰ってくるんでィ」
「……お母さんとお父さん、今日から二泊三日旅行に行ってるんだよね」


そう。二人は今日から旅行に行っている。しかも、二泊三日。つまりあたしはその間家に入れない。…これは、非常に困った。


「……どうすんでィ」
「…どうしよう」


数時間ならまだしもさすがに二泊三日家の外で待つのは無理がある。悪いけど結菜の家に泊めて……と思ったけどそういえば結菜は、今日部活の子たちとお泊まり会をするって言ってた気がする。…さすがに、その中に部外者のあたしがお邪魔するのは申し訳ない。他に泊めてくれそうな友達は……。


「………仕方ねェ」


ため息をついた幼馴染みががちゃり、と自分の家のドアを開けた。呆れて帰ってしまうのだろうか。そう思っていたら何突っ立ってんでィはやく入んな、という声が聞こえてきた。…ん?


「泊めてやるつってんだ。はやくしなせェ」
「え?ご、ごめん」


とりあえず幼馴染みの勢いに押されて家の中へと足を踏み入れる。そして冷静になって先ほどの幼馴染みの言葉を反芻した。……あれ、泊めてやる?
泊めてやるって言った?




足を踏み入れた

後ろでがちゃんと扉が閉まる音がするのをぼんやりと聞きながら、予想外の出来事に玄関で立ち尽くした。


141026

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