「あーあ、総合一位とりたかったなー」
「もう少しだったのにね」


教室から出て結菜と体育祭のことを話しながら廊下を歩く。
不安だった借り物競争が終わってから体育祭の閉会式までは、意外とあっという間だった。保健室から戻るとお昼の時間がもう残り少なかったのには慌てたけど、ごはんを食べてからはひたすら応援。午前であたしが参加する競技は終わっていたから応援するだけの午後は、とても楽だった。結菜が出た最終種目のリレーではアンカーの結菜にバトンが渡ったときは二位だったのに、最後の最後で結菜が抜いて見事一位。これには応援しているこっちまで白熱した。運動をするのはあまり得意じゃないけど、見る分には結構楽しかったしこれで高校最後の体育祭も良い思い出となりそうだ。結局総合得点では二位だったのが少し残念だけど。

職員室に用事があるという結菜と別れて階段を下りようとすれば、あたしの前を横切った人が見知った顔なことに気付く。


「土方くん」


一瞬悩んだ後話しかけるのを決意して恐る恐る前を通った人の名前を呼ぶと、振り向いて土方くんもあたしに気付いてくれたみたいで少しホッとした。


「あの、さっきはいきなり引っ張ってごめんね」
「いや、別に気にしてねーよ。それより怪我大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫です」


怪我のことを聞いてくる辺りやっぱり土方くんは見た目と違って優しい人なのだろう。まだ少し見た目の怖さにビビってるのかところどころ変に敬語になっちゃったけど土方くんと普通にしゃべれてるし、良かった。


「…そういや、一つ聞きてェことがあんだが…」
「聞きたいこと?」


土方くんがあたしに聞きたいこと…。一体なんだろう。全く検討がつかないままに先を促すと躊躇っているのか一瞬間を開けてから口を開いた。


「お前と総悟って知り合いか?」


総悟、いきなり出てきた幼馴染みの名前にどきりとした。変に動揺してしまったのを誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべる。


「えーと…、知り合いといえば知り合い、かな」
「なんだよその煮え切らねェ返事」
「一応幼馴染みなんだけど、仲が良かったのは昔で最近は全く話してなかったから」
「…確かにあいつに幼馴染みがいたなんて初耳だな」


今でも仲が良いのならまだしも、全く関わりのない幼馴染みのことを話す機会なんてそうそうない。あたしだって幼馴染みの存在は結菜に話してはいてもそれが同じ高校の人だということは言っていない。でも、誰も知らないのが、なんだか少し寂しい。


「でも、それがどうかしたの?」
「……あー、なんだか知り合いみてーな雰囲気、だったからよ」


だから少し気になっただけだ、という土方くんはなんだか歯切れが悪い。それに土方くんの前でそんな雰囲気だたっけ?

疑問に思いながら土方くんの方を見ると少し顔をしかめてあたしの後ろの方を見ていた。あたしも後ろを振り向いてみるとこちらに向かって歩いてくる幼馴染みの姿。噂をすればなんとやらである。
あたしと土方くんに気付いた様子の幼馴染みはすぐ近くで歩みを止めた。一瞬土方くんの方を睨んだように見えたけど気のせいだろうか。


「おい総悟お前今までどこいたんだよ」
「葉月も今帰りかィ」
「さらっと無視すんじゃねェ!」
「あっれ、いたんですか土方さん。すいやせん気付きませんでした」


幼馴染みと土方くんがなにやら言い争いを始めだしたけどあたしはそれどころじゃない。
葉月、そんな風に幼馴染みに名前を呼ばれたのは何年ぶりだろう。嬉しいような照れくさいような、なんだか不思議な気分だ。


「いつまでも土方さんといたらマヨ臭くなっちまう。てことで行こうぜィ」
「え、」


ぼんやりしていたらぐいっ、といきなり腕を引っ張られた。土方くんが後ろで叫んでいるのが聞こえるけど階段を踏み外さないように足を動かすので精一杯。
…今日はなんだか幼馴染みに手を引かれてばっかりだ。でもいやな感じは全くしなくて、むしろ昔に戻ったみたいで、なんだか少し楽しい。

下駄箱に来てようやく緩まった速度。肩で息をしてるあたしと違って幼馴染みは全く息が乱れていない。


「土方くん、放ってきて良かったの?」


息を整えながら尋ねるとこちらに一瞬視線を向けてから別にいいんでィ、と素っ気ない返事が返ってきた。そのまま自分のロッカーの方へと歩いていく幼馴染みを見てあたしも靴を履き替えるためにクラスの違う幼馴染みとはだいぶ離れている自分のロッカーへと向かう。

…あれ、ちょっと待って。ローファーに履き替えようとしてふと気付く。これってもしかして一緒に帰る感じなのだろうか。もし一緒に帰らないとしても、帰り道が同じなのだからどちらかが寄り道でもしない限り一緒に帰ってるのとほとんど変わらない。ていうか、そもそも幼馴染みはなんで土方くんから逃げ出したんだろう。それにどうしてあたしまで引っ張って来たのか。わざわざあたしまで引っ張って来る必要性があったとは思えない。なんとなくそこにいたから、とかだろうか。
浮上した幾つかの疑問を抱えながら出入口まで行くと当然のようにそこには靴を履き替えた幼馴染みが待っていた。あたしが近寄ると一緒に歩き出したから、やはり一緒に帰る流れみたいだ。
…気にはなったけど、先程の素っ気ない返事を思い出して聞くのはなんだか戸惑われたから疑問を口にすることはしなかった。




昔とは違う景色

小学生の頃、毎日一緒に登下校していたのが懐かしい。


140518

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -