「……ねぇ」
「なんでィ」
「今日は体育祭だから、保健の先生って本部テントにいるんじゃない?」


幼馴染みに引っ張られるがままに保健室の近くまで来たのはいいものの今日は体育祭だ。今更ながら先生がグラウンドに設置してある本部テントにいることを思い出したあたしは少し悩んだ後に幼馴染みにそのことを伝えるも一瞬だけこちらに視線を向けた幼馴染みは全く気にした様子もない。


「知ってらァ」
「…じゃあ、なんで保健室に向かってるの?」


あれ、あたしの記憶がおかしくなければ確かあたしの怪我の消毒をするために保健室に向かってるわけで、その保健室の主である保健の先生が本部テントにいるのだからこの場合保健室に行くのではなく本部テントに行くべきな気がするんだけど…。


「んなの、サボるために決まってんだろィ」


…さも当然のように返された言葉への反応に困っている間に保健室に着いてしまい幼馴染みの手によって扉が開かれた。運良く鍵はかかっていなかったみたいだ。体育祭当日に無人の保健室に鍵を掛けていないのは些か無用心な気がするけどこの際気にしないことにする。

…別に消毒ぐらいなら自分で出来るし、保健室には当然消毒液や絆創膏といった物達が置いてあるだろうからちょうど鍵もかかっていなかったし別に保健室でも何ら困ることはない。その隣で幼馴染みがサボろうがあたしには関係のないことだ。本部テントまで引き返すのもめんどくさいし。
だけど、保健室に入った幼馴染みの行動はあたしの予想とは違っていた。そのままベッドにでも直行してサボるのだろうと考えていたのに、なにやらその辺を物色しだしたかと思えば消毒液と絆創膏を持ってきてくれた上にそこ座って怪我見せな、と言いながら向かいの椅子に座った幼馴染みの指示に素直に従えば手当てを始めだしてしまった。今更自分でやる、なんて言えずにあたしはされるがまま。てっきり保健室にはサボるついでに連れてきてくれたようなものだろうと思っていたから、まさか手当てまでしてくれるとは思わなかった。


「ん、出来たぜ」


手当てしてくれてる幼馴染みもそれを眺めているあたしも黙っているため保健室には静かな空気が流れていたけれど、それは幼馴染みの作業が終わるまでの本の少しの間だけ。通常のものより少し大きめで正方形の形の絆創膏をあたしの膝に貼ることによって幼馴染みの手当ては終了した。それを見てお礼を告げてから片付けくらいは自分でやろうと立ち上がって幼馴染みが出してきてくれた消毒液やらを元の場所に戻すために動く。その間幼馴染みの目線は何故かあたしに釘付け。元の場所に戻し終えて幼馴染みの方を振り向くとばっちりと目が合った。幼馴染みの瞳はやっぱり何を考えてるのかわからなくてなんとなく視線を逸らしそうになったとき、幼馴染みが口を開いた。


「…土方さんのこと好きなのかィ?」
「………………へ?」


幼馴染みの問い掛けに長い間を空けてようやく出た声はなんとも間抜けな声だったと思う。だけど突然こんな質問されたら間抜けな声の一つや二つ出たって仕方ない。


「…別に土方くんのことは好きでも嫌いでもないけど」


今朝のあたしなら嫌い…というより苦手だと答えたかもしれないけど土方くんはきっと本当は優しい人なんじゃないかなってさっきので思えたからもう苦手意識はそんなにない…はず。……いや、そりゃまだちょっとは怖いけど。特にあの開ききった瞳孔が。


「…土方くんがどうかしたの?」
「……さっきの借り物競争、イケメンで土方のヤロー選んでたからもしかしてって思ってねィ」


なるほど。確かにあのお題だと土方くんのことが好きだと思われても仕方ないかもしれない。実際は、ただ純粋に世間一般的に見てかっこいい方だと思っただけで、土方くんに対して恋愛感情は全くないけど。


「そういえば、土方くんから何か傘の話とか聞いてない?」
「…傘?」


土方くんのことを話していると必然的に傘のことが思い出されたのでなんとなく幼馴染みに聞いてみたものの、いきなり傘の話と言われた幼馴染みは訝しげな目をこちらに向けてきた。…まぁ、当然と言えば当然の反応だ。あたしだっていきなり傘の話なんて言われても首を傾げる気がする。


「あー、別にわからないならいいんだけど」


でも、傘の話と言われても何も思い当たらないのであればきっとあの話は聞いていないのだろう。幼馴染みの反応はそう推測するには十分な反応だった。ついでに土方くんっていじめられてたりするのか聞こうと口を開きかけて、やっぱりやめた。さすがにそれは無神経な気がしたし、土方くんとは知り合いとすらも言えないような関係のあたしが簡単に首を突っ込んでいいような話ではないと思ったから。


「あ、あたしもう行くね」


時計を見るともう昼休憩も半ばで、このままだとお弁当を食べ損ねてしまう。傘の話というのが微妙に気になっている様子の幼馴染みはあたしの言葉に時計を見るともうこんな時間か、と呟いて伸びをしながら立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ俺も一眠りすることにすらァ」
「…ほどほどにね」


どうやら午後を本当にサボるつもりらしい幼馴染みに苦笑しながら最後にもう一度手当てのお礼を言ってあたしは保健室を後にした。





久しぶりの会話

意外と普通にしゃべれていたことに廊下を歩いていて気付いてなんだか不思議な気分になった。

130126

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