「諦めるも何もあれはお妙さんの愛情表現であって、…ん?なんだ?トシの知り合いか?」
「……」
「……」


見るからに痛そうな痣が顔面にたくさんあるゴリラっぽい人が立ち上がりあたしの存在に気付く。そして土方くんとあたしを交互に見ているもあたしと土方くんの間には沈黙が続いたまま。
…沈黙が、痛い。ていうか、土方くんの視線が痛い。お願いだから瞳孔の開ききった目でこっちを見ないでほしい。…やっぱり傘のこと、怒ってるのかな。視線に堪えられなくて思わず目を逸らしてしまい、目線がその辺をさ迷ってしまう。本当は今すぐここから逃げ出してしまいたいところだけど、怖さからか足が竦んで動けない。


『一足はやく目当ての人物を見つけたのはE組!今ゴールへと向かっています。このまま一着でゴールなるか!』


放送部による実況に、突然土方くんに会ったせいで軽く動揺していた頭がようやく冷静さを取り戻し、恐怖も忘れて振り向くとE組がゴールへと向かっている姿が見える。…やばい、今が借り物競争の真っ最中だってことすっかり忘れてた…!
焦ってZ組からイケメンを探すために目線を戻すとまず目に入ったのは近くにいる土方くん。……土方くんって、イケメン、だよね?


「土方くん、ちょっと来て!」
「はっ?…ちょっ、おまっ」
「何も聞かずに走って!」


土方くんに殺されるだとかそんなこと考える余裕なんて今はなく、土方くんの腕を掴んでゴールへと全力疾走。E組がいたところよりもZ組のテントの方がゴールに近いためにこちらの方が少し有利だったにも関わらずE組の人は足が速く、今にも追い抜かれてしまいそうなほど距離がどんどん縮められている。だけど、ゴールテープはもうすぐそこ。後少し持ちこたえれば……っ!?


「っ、おい!」
『なんと一着はC組!C組です!転ぶようにしてゴールしました!』


…放送部の実況には少し語弊がある。実際には転ぶようにしてゴールなんてしていない。何もないところで躓いて転んでしまい、その勢いでゴールした、の間違いだ。
…あまりの鈍臭さに恥ずかしくて転んだ状態のまま起き上がることが出来ない。穴があったら入りたい。


「…大丈夫か?」


土方くんの呆れたような声に恐る恐る顔を上げると目の前に差し延べられた手。…その手に驚きを隠せなくて戸惑っていると腕を掴まれ、立ち上がらせてくれた。


「…ありがとう」


…もしかして、実は土方くんはいい人なのかもしれない。さっきだって無言だったのは怖かったけど怒ってるならあたしの顔を見るなり怒鳴ったりしてそうだし、今だって説明も何もなしに突然走らされたのに転んだあたしを引っ張って立ち上がらせてくれた。
それに、人は見かけによらないって言うし、外見だけで人を判断するのはよくない。…うん、ちょっと反省。


「…お前って、あのと」
「土方さん」


土方くんが何か言おうとしたのを遮るように耳に届いた声。その声の人物が後ろから近付いてくる気配になんとなく振り向いて視覚がその人物を捕え、頭が認識した途端思わず息を飲んだ。


「…っ」


何を考えているのか全くわからない瞳でこちらをじっと見つめてくるその人物は紛れも無く昔はよく一緒に遊んだりしていたあたしの幼馴染みだ。…土方くんと仲が良いのは、廊下で一緒にいるのを見掛けたりしていたから知ってはいた。だけど、まさかこのタイミングで現れるだなんて全く考えていなくて、呆然とただ突っ立ていることしか出来ない。


「…さっき土方さんが出る競技の召集が始まっただとかで山崎が探してやしたぜィ」


ぷいとこちらから視線を逸らし土方くんに用件を伝えるのを見て小さく深呼吸。同じ学校なんだからこうして会ったところで何も驚くようなことじゃないし、別に絶対に会いたくなかったっていうわけでもないんだからいつも通り平常心でいないと不自然だ。…ただ、長い間話すらまともにしていなかったから、やっぱりどういう態度で接すればいいのかがわからなくて少し気まずさを感じてしまう。相手がどう思っているのかわからないから余計に。


「………怪我、」
「え…?」
「血出てる」


どういう風に接すればいいかを考えてる間に召集場所に向かったのか土方くんの姿が消えていて、先程転んだ際に擦りむいたあたしの膝を指差す幼馴染みだけが変わらずそこにいた。


「あ、本当だ」


指差された膝を見ると赤く血が滲んでいる擦り傷があって、頭が怪我を認識した途端痛みだしてくるから思わず顔をしかめてしまう。結構ひどく擦りむいているから保健室に行って消毒してきたほうがいいかもしれない。ちょうど今からお昼休憩だし行ってこようかな、なんて考えながら膝に向けていた視線を戻したのと手首を引っ張られたのはほぼ同時だった。また転びそうになりながら引っ張られるがままに足を動かすもその幼馴染みの突然の行動の意味が理解出来ない。


「ちょっ、何処に…」
「保健室。あんだけ派手に転んだんだ、消毒くれェしといた方がいいだろ」


あたしの手首を掴んで歩いて行く幼馴染みの背中が、なんだか昔を彷彿させた。







昔と重なる

そういえば昔は何処へ行くのにも手を引いて連れて行ってくれてたっけ。

20110514

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