お酒とヘタレ(黄瀬)


「麦焼酎ロックおかわり!」
「まだ飲むんスか!?すみません!今のなしでウーロン茶お願いします!」
「はぁ!!?なんでウーロン茶なのよ!馬鹿黄瀬!」
「ちょっと飲みすぎっス。一旦ウーロン茶で休け」
「やだやだやだーー!お酒飲むのー!アルコールがあたしを求めてるのー!」


もう手遅れな気がしてきた。

がやがやと賑わっている居酒屋で向かいに座っている大学の先輩である彼女は、もう相当に出来上がっている。さっきから結構なハイペースで飲んでいたから危ない気はしていたが、まさかここまで酔っ払うとは。普段彼女は自分の限界をきちんと弁えているからこそ酔っ払うまで飲むことなんてなかった。だから油断していたのかもしれない。彼女のことだからほろ酔い程度になりはしてもべろんべろんに酔っ払うまではいかないだろう、と考えていた自分が甘かった。


「ウーロン茶お持ちしましたー」
「ありがとうございます。ほら、先輩これ飲んで」
「いやっ!ウーロン茶なんていらない」


ぷいっ、と顔を背けてぶーぶー文句を言う彼女の変貌にはびっくりだ。先輩がこんな風に人を困らせるようなところは初めて見た。いつもにこにこしていて、人を困らせるより困ってる人を助けるような人。そんな彼女が酔っているとはいえこんな風にオレに我が儘を言ってくれるのは、男としてはあまり悪い気はしないもんだ。これ以上酔われるのはさすがに困るけれど。


「黄瀬のヘタレ」


とりあえずこれ以上アルコールを頼むことだけは阻止しないと、と考えているといつの間にかこちらをじとーっと見つめて頬を膨らませていた彼女がぽつりと呟いた。その言葉が、ぐさりと胸に突き刺さった。


「いきなりどうしたんスか?」
「だって、女の子がこんなに酔っ払ってんのに何を呑気にウーロン茶なんて飲ませようとしてんのよ。男ならお持ち帰りしようとか少しは考えなさいよー!」


それともあたしには全く興味ないって言いたいの。と続けた彼女の瞳はお酒のせいなのかなんなのか少し潤んでいる。それがひどく扇情的で、思わず生唾を飲み込んだ。

俺だって男だ。先輩のことは実は前から少し気になっていたし、正直どんどん酔っていく先輩を見てこのままホテルに連れ込むなりそれこそ家にお持ち帰りするなりを考えなかったわけじゃない。それに、実際にそうしようと思えば出来ただろう。だけどそれをしなかったのは明日先輩の反応を見るのが怖いから。その関係に進んでしまえばもう後には戻れないと知っているからこそ、ちっぽけな理性がストップをかけた。だけどそれは彼女の言う通り、俺がヘタレだからということになるのだろうか。


「なかなか先輩と後輩の関係から進展しないし黄瀬ったら全然手出してこないしで、それならお酒の力借りてでも手出してもらって女として意識してもらおうとこうして二人きりでわかりやすくちょっと酔ってみたのになんなのよ」


こうなったらこの後黄瀬の家に押しかけてやるだの据え膳食わぬは男の恥でしょー!とか酔った勢いでいろいろぶちまけ出した彼女に呆然とする。まさか彼女がこんな風に考えていただなんて。女の子にここまで言わすなんて男としてどうなのだろうか。男としての自尊心みたいなものがぼこぼこにへこんだ気がする。


「先輩」


ぶちまけるだけぶちまけて次は机に伏せ出した彼女の手を握れば、涙に濡れた瞳と視線が交わった。


「とりあえず今日は帰りましょ。帰れそうにないならオレの家泊まってもいいんで」


オレの言葉に目を見開く先輩。だけどその表情は少し複雑そうだ。…女の子にあそこまで言われた後だとガッついてるみたいでやっぱかっこつかないな。


「今日は手出さないんで安心してください」


まあ、でもかっこつかなくてもヘタレでももうなんだっていい。それよりも、彼女にあそこまで言わせたんだから責任取って大事にしないと男が廃るってもんだ。

明日、彼女の目が覚めたとき、好きな人と酔った勢いでなんてしたくなかったっス、って言ったら彼女はまたオレをヘタレだと言うだろうか。




お酒とヘタレ

---------------
初黄瀬くん。
友達と居酒屋で話してて思いついた話。




2014/07/17

|

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -