咲羽(14巻ネタバレ)




雪代姐様は、私の憧れだ。私だけでなく、雉の血筋の人間であれば雪代姐様に憧れない者など一人もいないだろう。美しいお顔に優雅な振舞い、そしてなにより雉一族の誇る純血の獣基。半分しか覚醒しなかった私たちとは全く異なる存在。雉乃木雪代という人物は、存在そのものが洗練されていてまるでお人形のように完璧な人だ。まさに我が君を守るのにふさわしいお方。私も雉の一族の端くれだ。そんな人に、憧れないはずがない。だから、そんな雪代姐様のことを尊敬すると同時に羨望してしまっていることも仕方のないことだと許してほしい。彼とたくさん一緒にいられる彼女が羨ましいだなんて、そんなことを考えてしまっている私には我が君を守る資格なんてないのだろう。臣下である私たちは我が君のことを第一に考えなければいけないはずなのに、こんなことを考えてしまっている自分が情けない。だから半分しか覚醒できないのもきっと当然の結果なのだ。もし私も雪代姐様のように覚醒していたら、なんて考えてみることすら烏滸がましい。雉一族の鑑である雪代姐様はきっと
、常に我が君のことを第一に考えておられるというのに。私は一生、そんな雪代姐様の足元にも及ぶことはできないのだろう。そんな私が、彼と同等になりたいなどと望んでいいはずがない。


「あ」


我が君の初めてのご来訪にそわそわと落ち着かない雰囲気を纏っている洋館内を歩んでいると、前から彼が歩いてきているのが見えた。先程も客室で会ったとはいえ、偶然彼に会えたことに内心本の少し喜びを感じていたら彼から声が溢れ落ちる。彼の瞳は私を捉えていて、周りには今私たち以外に人はいない。つまり、この状況から考えると勘違いではなければ先程の一音は私に対しての声ということになる。しかし私と彼は仲良くお話をするほど親しい間柄ではない。戸惑いながらも軽く会釈をしてそのままその場を通り過ぎようとしたら、腕を捕まれて立ち止まざるを得なくなった。


「なあ、お前さっきずっとオレのこと見てただろ?」


その言葉にぴくりと肩が跳ねる。先程客室でお茶をお出しする際、彼、咲羽さんに久しぶりに会うことができて成長された咲羽さんを思わずじっと見てしまったけど、冷静になって考えてみればそれに猿の正獣基である咲羽さんが気付いていないはずがない。だけどここで焦ってしまえばそれを肯定してしまうことになるし、そうなると彼はきっと何故見てたのかという理由を探るだろう。それは全力で避けたい。焦りが顔に出ないように、一呼吸置いて口を開く。


「なんのことでしょうか?」
「……へー、とぼけんだ」
「…宴の準備がありますので、手を離してもらえないでしょうか」


腕を捕まれてることや、会話をしていることにさっきから心臓がうるさく騒いでいる。この状況に少なからず喜んでいる気持ちと、ずっと見ていたことが咲羽さんに気付かれていて恥ずかしい気持ちとが混じって今すぐこの場所から逃げてしまいたい。だけど、腕を捕まれているせいで逃げるに逃げれないのだ。お願い、はやく離して。そんな望みも虚しく、離すどころか引っ張られたかと思うとすぐに背中に軽い衝撃が走った。先程よりも近くなった咲羽さんの顔にぴしりと体が固まる。そのせいで、今の状態が所謂壁ドンというものだということに気が付くのに少しの時間を要した。


「言いたいことかあるなら言えば?」



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14巻を読んで昂った勢いで書いてたものの何をどうしたいのかわからなくなってきて途中で終了しました。冒頭の雪代への憧れを書くのが楽しくてそこで満足した感があります。案内役だった半獣基たちはきっと雪代にこんな気持ちを抱いてるんだろうなーとか考えながら書くのがとても楽しかったです。どうせなら、憧れの雪代だって実はすごい苦労してる、みたいな感じのことも書きたかった……。できたらリベンジしたいです。

14巻といえば、咲羽と一緒にダンスがしたくて仕方ないです。めんどくさそうに端っこでサボってた咲羽に宵藍みたいに突撃したい……。




2015/09/10

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