沖田誕





「沖田くん今日誕生日だよね」


爽やかな水色をしたアイスをしゃくり、と咀嚼しながら目の前の女がにこにこと微笑む。俺の手元にもある彼女のと全く同じ水色のそれに俺もかじりつけば口の中にしゃりしゃりとした触感と冷たさが広がった。


「誕生日おめでとう」
「ありがとうごぜーやす」
「…なんだかあまり嬉しそうじゃないね」
「誕生日プレゼントが100円もしねーアイスじゃなかったらもっと喜んでやした」
「だって沖田くんの欲しいものがわからなかったんだもの」
「…俺の欲しいものは前からずっと言ってるはずなんですけどねェ」


わざとらしくため息をついて見せれば、彼女は困ったように笑う。

今は講義の時間だからかこの辺りに人はほとんどいなく、キャンパス内のベンチに肩を並べて座っている俺達以外の話し声は全く聞こえない。アイスを食べるのに集中している間は、ひどく静かだ。


「沖田くんって意外と一途だよね」
「意外だなんてひでーや」


俺ァ高校の頃からあんた一筋だってのに、なんていう言葉はアイスと一緒に飲み込んだ。
高校の頃同じ委員で仲良くなった2つ年上の先輩。そんな彼女は事もあろうにこの世で一番大嫌いなあの男の元カノだ。


「まだ、好きなんですかィ」
「んー、好きかどうかって聞かれるとわからないけど、別に未練はもうないかな」
「なら、そろそろ彼氏とか作んねーんですか」
「…当分は作らないよ。沖田くんが悲しむから」


最後の一口を口に押し込んで棒を見るもそこには何も書かれてなんていなくてただの棒だった。誕生日だってのについてない。ベンチの横にあるごみ箱に棒を放り投げれば何かに邪魔されることもなくちゃんとごみ箱に入った。


「沖田くんこそ彼女、作ったらいいじゃない」
「作りませんよ。あんたが寂しがりそうなんで」
「…確かに少し、寂しいかもね」


願望半分冗談半分に言った言葉に返ってきた言葉の真意なんてわかりゃしない。この人にとってはきっと深い意味なんてないのだ。



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去年の総悟の誕生日の没ネタです。
そのうち続きが書きたいと思いつつ願望で終わりそう……。




2015/01/22

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